山本 圭介(やまもと・けいすけ)
 
1947年長野県生まれ。1972年東京藝術大学美術学部建築科卒業。1974年東京大学工学系大学院建築学修士課程修了後、槇総合計画事務所に勤務。1989年山本・堀アーキテクツ設立(共同主宰)。2001年東京電機大学工学部建築学科教授。2007年東京電機大学未来科学部建築学科教授。現在、東京電機大学教授、山本・堀アーキテクツ共同主宰、一級建築士。大東文化大学板橋キャンパス(共同設計、日本建築学会作品選奨、東京建築賞東京都知事賞)、二期倶楽部東館(栃木県建築マロニエ賞)、工学院大学八王子キャンパス15号館(日本建築学会作品選奨)、福岡大学A棟(共同設計、日本建築学会作品選奨)、中野坂上サンブライトツインビル(共同設計、日本建築学会作品選奨)ほか
 

堀 啓二(ほり・けいじ)
 
1957年福岡県生まれ。1980年東京藝術大学美術学部建築科卒業。1982年同大学大学院修士課程修了。1987年同大学建築科助手。1989年山本・堀アーキテクツ設立(共同主宰)。2004年共立女子大学家政学部生活美術学科建築専攻助教授。現在、共立女子大学家政学部建築・デザイン学科教授、山本・堀アーキテクツ共同主宰、一級建築士。大東文化大学板橋キャンパス(共同設計、日本建築学会作品選奨、東京建築賞東京都知事賞)、ブラウドジェム神南(グッドデザイン賞)、二期倶楽部東館(栃木県建築マロニエ賞)、工学院大学八王子キャンパス15号館(日本建築学会作品選奨)、福岡大学A棟(共同設計、日本建築学会作品選奨)ほか


 

02:山本・堀アーキテクツ / Yamamoto Hori Architects

 

このコーナーでは、建築家の方々に登場いただき、"雨のみち"のコンセプトや方法を、実際の作品に即してうかがっていきます。インタビュー第二回のゲストは、山本・堀アーキテクツの山本圭介さんと堀啓二さんです。

 
 

性能を保持し、綺麗に納める。究極の雨どいを求めて。

 
----- 基本的に建築での「雨のみちデザイン」の対象範囲は、どのように考えられていますか。
 

山本:屋根から排水ますまでが、建築の仕事になります。雨のみちという事であれば、「雨漏り」には留意していますし、 雨といは隠蔽ではなく、外部にあるべきですね。普通に考えれば、そうなります。オフィスビルでは隠蔽が多いですけどね。私たちの案件では、極力外に出す事にしています。メンテナンス的にも利にかなっている。だから、隠蔽は本当にやむを得ない場合に限ります。

 
堀:しっかり監理しないと、隠蔽物にも設計の仕様で入れた外部のアルミがそのまま施工されてしまうことがあります。アルミは隠蔽した場合、雨音が問題になります。隠れる部分に意匠を施してもしょうがないじゃないと。何よりも、雨といは、建物の一部となる意匠であるべきでしょう。
 
----- 雨のみちのデザインには「用」と「美」が必要になりますね。
 
山本:「用」と「美」。その通りですね。 雨といは筒で機能されるだけではない。例えば、 アルヴァ・アールト(1898-1976)の建築には、ほとんど雨といを見る事がありません。 建築家たちがどんな雨の処理をしているのかを研究するだけでも、いいスタディになるのではないでしょうか。そこには必ず発見がある。

 
 
 

雨のみちの外部露出とディテール

 
----- 大学施設など大きな施設も手がけられていますが、そのような場合の雨に対する考え方はどのようになりますか。
 
堀:当然、雨は設計のひとつの分野になります。もちろん雨といの大きさや配置を検討していきますが、ただ開放してもよい部位は指定されてしまうことが多く極力つなぐ様な仕様を求められます。集合住宅なども基本的に性能が担保されていれば形状の仕様も自由です。ただ、ディベロッパーの場合は、その納まりや仕様が詳細に決められていて意匠に影響しやすいですね。
 
山本:外部露出の雨といの採用は、5階程度までです。唯一それ以上でも外部雨といとなるのは集合住宅ですよね。
 


堀:そこでいかに美しく見せるかというのがいつも格闘するところです。上の図は、<大東文化大学板橋キャンパス中央棟>の断面図なのですが、雨といが地中梁に当たってしまうので、GL付近で曲がりが発生する納まりになっています。まっすぐ落としスッキリした納まりとしたいので、地中梁フーチングを下げるなど建築的な対応をしています。けど、このような場合に対応した良い金物がなかなかないのです。
 

山本:最近の仕事は集合住宅が結構多いです。上の図は西麻布にある<コスモ・ザ・パークス調布多摩川>の断面図です。フレームで形を作る事が多く、フレームがそのまま雨といになる三協立山社の商品はとてもいいですね。雨といがそのまま意匠になる。雨といメーカーではない企業が考えたからこその商品かもしれません。バルコニーは必ず排水を取らなければならないから、その部分が洗練されるだけでも意匠に与える影響は大きい。西調布では、その部分を工夫しています。
 

<コスモ・ザ・パークス調布多摩川>外観

いろいろな案件を経験していくと、例えば 化粧柱風の雨とい、なんてものがあるといいなと思います。あと基本的には、 横といと縦といの接点は美しく見えるようでありたいですよね。

 
堀:そうですよね。といは、といでしかないわけだから、美しさと共にそうでないように見せるには?という事に気を配っています。
 
山本:雨といから離れるけど、「水切」も重要なファクターですよね。窓に付随するものだけど、既存のサッシメーカーには、いいものがほとんどありません。水切や笠木のジョイント部の汚れ解消ということもとても気になる視点です。
 

(photo=workflo)

やっぱり美しさという点では、アールトの建物は美しいですよね。雨といが露出しているのに気にならない。(右写真:「メゾン・カレ邸」(アルヴァ・アールト/1956-1959))

 
----- 建築にあった大きさ、ボリューム感ということも大きなポイントでしょう。建築システム全体として考えなければ、美しくならないはずです。

雨のみちのメンテナンス

 
タニタ:<工学院大学八王子キャンパス>では「耐久性」についての評価を語られていましたが、メンテナンス性については、どのようにお考えですか。
 
堀:基本的には何もしないで、長寿命という事に着目して設計しました。イニシャルコストは多少高くても長く使えれば、そちらを選択する。その部分を明確に示すことができれば、設計者は関心を示すと思いますよ。それから、学校建築の場合は、耐久性(タフさ)という点が重要だと思います。つまり、どんな使い方をされるか想像できないんですね。
 
タニタ:利用者、住まい手が、点検しやすいという事はポイントになるんでしょうか。
 
山本:それは大いにあると思います。
 
堀:特にドレン部分に関しては、そのような要素が発生します。まぁ、ほとんど掃除しないのですが。オーバーフローして初めて雨、そして雨といの大切さに気付くのですよね。
 
タニタ:音の問題が生じることもよくありますか。
 
堀:地中梁と雨といの位置関係が、うまくいかない事で、音が生じてしまうことがあります。先にも話しましたが、隠蔽部でアルミを使用したとき、雨音が生じたことがありました。
 
山本:逆にタニタさんの方で、雨といによる事故(失敗)はありますか。オーバーフローとか、雪で壊れたとか。
 
タニタ:ゲリラ豪雨の頻発時にはオーバーフローのお話がありました。雪に関しても、今年(2012年)のような豪雪下では、住宅の相談が若干ありました。ちょっと変わったものですと、高所に施工された雨といのバンドが金属疲労を起こして破断したというのがありました。

システムとして「雨のみちデザイン」をつくる

 
----- バルコニーや開放廊下はシステムとしてとらえたいですね。
 
堀:そうですね。赤羽の <ヌーヴェル赤羽台6・7号棟>では、それを意識して設計しました。 雨といでも納め方によって全く気にならなくなるわけです。実際見てみると感じられる。 シンプルで綺麗なシステムがあればいいですよね。
 

<ヌーヴェル赤羽台6・7号棟>外観、廊下縦樋

 
タニタ:メーカーって、何か化粧しなければならないという意識が出てきてしまうんですよ。だからそうではない。「単純」ではなく 「単純に見える」事が大事なんでしょうね。私たちは、コンサルまではいかなくても、 建築家の悩みや不安を引き受けて失敗させないためのアドバイスをさせていただく。そして、建築家のイメージするものを、いかにして具現化するかという形をめざしています。
 
山本:サッシメーカーやガラスメーカー、特に技術的なコンサルでは、そのような動きがありますよね。
 
----- 「雨のみちをデザインする」ということは、ボーダーレスなんだと思います。屋根、とい、壁、そして地面までが一連りになることでもである。だから、考える事はまだまだいっぱいありますね。だからこそ「雨のみちをコンサル」するという考えはあるのではないでしょうか。その場合、建築のコンセプトとすり合わせする人が必要になりそうですね。
 
山本:一番怖いところでもありますが、そういう人は必要かもしれません。
 
堀:大型の建築ではどうしても、ルーフドレンとの組み合わせになります。この組み合わせは優先度が不明な部分ですし、といとドレンの納まりを考える人がいてもいいですよね。赤羽では、引き込み管が見えない工夫をしています。しかし、その部分で配筋に対するかぶり厚はどうなるのか?などの指摘が出てくる。その為にこちらで配筋を検討し納まりを提示したりしている。 横引きで美しい雨といができればいいのですが。
 
山本:そこは重要なポイントですよね。
 

<コスモ・ザ・パークス調布多摩川>の化粧雨とい+隔て板

堀:この視点は、住宅にはない訴求部分だと思います。それから、集合住宅の場合、「隔て板」というものが発生する。 「隔て板」は、雨といと干渉しがちで、その時の取り合い(雨といの位置関係)は意匠に影響するわけです。西調布では色々な実験をしました。見上げ姿を見て「失敗だ……」なんて事もありました
 
山本:だから今後も、民間の中小規模案件では、色々な実験をしてみたいのです。
 
タニタ:設えを考えた時、 アルミという素材はポイントになるものでしょうか?
 
堀:高層になった場合、 物量(重量)はとても重要になります。また、 素材感としても手すり等と併せるような考え方を持っているので、アルミという素材は魅力的です。

雨のみちのコンサル的視点

 
山本:タニタでは、雨といのオーダーには対応しているのですか。
 
タニタ:基本ベースは既製品の応用になっています。それに付随する一部品の特注が一般的な対応です。それでも、オールオーダーの依頼を年に何度かお預かりする事があります。
 
山本:軒先のデザインは、みんな関心を持っていると思います。そこで「これしかない」と言われてしまうとつらいですよね。
 
堀:特に取り合いのディティールは非常に重要だから、綺麗に納めて、性能も保持するという部分ではコンサル的な活動がやはり必要なのかもしれませんね。
 
山本:サッシなどは、昔は全部、自分達で設計をしました。図面を引き、型を起こして。ボリューム次第では、そんな事も出来る。けど、小さな規模になるとそうはいかない。だから、最近のサッシメーカーが実践しているコンサルのような活動は、非常に助かります。
 
----- 非住宅の場合は、コンサルを伴う活動がないとだめというわけですね。屋根躯体が出来たので打ち合わせを・・・というような早い段階でコミットをして、美しくない部分を修正できるような事を考えていくべきですね。
 

(2011年3月16日|東京都渋谷区の山本・堀アーキテクツ事務所にて|インタビュアー:真壁智治)