安井昇(やすい・のぼる)
 
:1968年京都市生まれ。1991年東京理科大学理工学部建築学科卒業。1993年東京理科大学理工学研究科建築学専攻(修士)修了。積水ハウス株式会社入社。1998年積水ハウス株式会社退職。1999年桜設計集団一級建築士事務所開設。2004年早稲田大学理工学研究科建設学専攻(博士)修了。
 
現在 岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師(2005年~) NPO 木の建築フォラム理事(2007年~) 高知県立林業大学校特任教授(2018年~) 早稲田大学理工学研究所研究員(伯耆原智世研究室所属)(2021年〜) NPO法人 Team Timberize 理事長(2021年〜) 東京大学生産技術研究所リサーチフェロー(腰原幹雄研究室所属)(2021年〜)
 

Cross Point Interview

特集「木造施設への期待と課題」

01:安井昇 / Noboru Yasuhi
防火の視点から
木造建築を進化させる

2022/8/31
インタビュアー:真壁智治、編集:平塚桂、大西正紀
インタビュー収録:2021年9月30日
 
 
— まずは安井さんの建築家としての出自と、現在主軸とされている桜設計集団の活動からお聞きしたいと思います。早稲田大学の長谷見雄二先生の研究室にいらした経緯を教えてください。
 
安井:修士課程までは東京理科大学にいたのですが、当時から(国交省所管の研究機関である)建築研究所に出されていて、そこでの指導教員が長谷見先生でした。その縁で先生が早稲田大学に移られてから、長谷見研究室へと入り直しました。
 
— その頃から研究の主題を、防耐火設計に特化されていたのですか?
 
安井:東京理科大学時代は、長谷見先生の指導を受けながら建築研究所で木造防火の研究をしていました。また博士課程に進んだ2000年前後は町家が建築基準法に位置づけられておらず、僕の実家は築100年くらいの京町家ということもあり「安井くん、京都でしょ。一緒にやるか」と先生に言われ、「やります」と言ったのがはじまりです。
 

安井さんの京町家の実家。


— 昔から長谷見先生の存在と木造防火の研究が身近にあったわけですね。建築研究所も含めて長谷見先生とのお付き合いはどのくらいの期間になりますか?
 
安井:学生として指導いただいたのが3年間、その後積水ハウスにいた5年間は研究を離れたのですが、長谷見先生が早稲田大学に移られた際に戻りました。以来、長谷見先生の退官に伴い研究室がなくなる2021年3月まで、合計約24年間、長谷見先生にお世話になっていました。
 
— 論文「柱圧縮試験による木造土壁の火災加熱時の非損傷性予測と木造土壁外壁の防火設計」で2007年日本建築学会奨励賞を受賞されていますが、これは独立されてからですか?
 
安井:そうですね。98年に積水ハウスをやめた後で、長谷見研究室に属しつつ、自分で桜設計集団をやりながらです。
 
— 桜設計集団を立ち上げた動機とはどのようなものだったのでしょうか。
 
安井:積水ハウスにいた頃に一級建築士資格を取ったので、設計事務所はいつでもはじめられる状況でした。何をするのかは決まっていなかったのですがひとまず事務所をつくりました。その頃世田谷区の桜で事務所をシェアしていたのと、最初はひとりでもそのうち集団になれたらいいなと 「桜設計集団」という名前で1999年にはじめました。でも最初の10年間は1人でした。そこから構造設計や意匠設計をできる人が入ってくれて、最初に大きな場をつくっておいたことで人が集まりはじめたという感覚です。
 
— その頃から非住宅分野での木造建築の設計を推進するというビジョンはおありだったのですか?
 
安井: 2000年代前半、大きな木造を建ててもよいというふうに法律が変わりました。最初はそこまでではなかったんですが、2005年頃から国産材をいかに使うかという方向へと世の中が騒々しくなっていくわけですね。そこで2010年あたりからいろんな人から声をかけられることが増えていきました。
 

木造建築に関する建築基準法の変遷。


— なるほど、国の動きに応じて注目されたわけですね。
 
安井:そうですね。2010年 「公共建築物等の木材利用促進に関する法律」ができました。そこには「国は民間の知見などを採り入れながら技術開発をして、安全なことが明確になれば法律を緩和していく責務がある」という主旨のことが書かれているんです。こうした中2010年以降は国の委員会に参加したり、国からの委託で動いたりすることが増えましたね。ただし木造の防火と構造は特殊な技能なので、事務所も規模を大きくするよりも少数精鋭で、誰もやっていないことをできるようにしていこうと考えました。
 

公共建築等における木材利用の促進に関する法律(2010年)


国土交通省による木造3階建て学校の実大火災実験。


— 続いて、作品について教えてください。初期のプロジェクトとしては「谷中の町家」(2009年)「下馬の集合住宅」(2013年)あたりでしょうか。
 
安井:そうですね。自分で設計する、意匠設計者が別にいてその防耐火設計をサポートするという2通りの関わり方があるのですが、 「谷中の町家」はデザイナーとして前者の、 「下馬の集合住宅」はエンジニアとして後者の関わり方でした。
 
—「谷中の町家」はどんなプロジェクトでしたか。
 
安井:ちょうど木造土壁の防火性能の論文を書き上げた後に手がけたものでした。僕の論文を含め長谷見研究室の研究内容は法律へと反映はされていたのですが、すぐに世の中に浸透するわけではありません。ならば僕が最初に事例をつくろうと思いました。その頃クライアントさんから住宅の設計を依頼され、お話を伺うと和風の木造が良いというので、エンジニアリングの知見を反映させた真壁の町家を形にしました。
 

「谷中の町家」外観。(photo = 川辺明伸) 


「谷中の町家」内観。(photo = 川辺明伸) 


— この作品における法律的な解釈とはどのようなものですか。
 
安井:準防火地域の3階建てなので耐火条件はかなり厳しく、一般的には全面的に耐火被覆することが多いです。しかし法律には、準耐火構造にすれば良いですよとしか書いておらず、その方法として被覆、木材を太く厚くするといった解決策があるわけです。耐火被覆がリーズナブルで一般的ですが、違う方法があるぞと示したプロジェクトです。
 
— 反響はいかがでしたか。
 
安井:区役所に建築確認を出した際、止められたことがあります。今まで審査してきたものにはない形式なので「なんだこの木が露出しているのは」と。そこで法令集を持っていって「ここにこう書いてありますよね」と言ったら、納得されるわけです。軒裏に木材が出ていても構わないということも2004年の段階で法制度化されていますが、そういった一般的なことも知られていないので、知ってもらう必要があると感じました。戦争で木造建築が燃えてしまったので、その後の政策では木造においては見えている部分はすべて覆うという方針が取られたわけですが、それは細い、華奢な木材が用いられていたからで、断面の厚さが違えば話は違うというのが現代の考え方です。
 

準防火地域の木造3階建て住宅。


— エンジニアとして関わった「下馬の集合住宅」はいかがでしたか。
 
安井:現在 「ティンバライズ」というNPO法人となっている、その前身の組織で活動していた2000年代前半、朝日新聞に「都市木造をつくっていこうと言っている変なやつらがいるぞ」と取り上げていただいて、それを読んだクライアントさんから「今まではRCで建てて来たが、最後の1棟は木造でやれるならやりたい」と連絡をいただいたのです。
 
— 複数の集合住宅をおつくりになられて来られたクライアントさんだったのですね。
 
安井:そこでティンバライズの前身となる組織で意匠設計は誰、構造は誰と決めていったのですが、防火は技術開発にあたることをしないと建物が建たないような時期で、開発に関わることになりました。ところが技術開発も終わり、設計も終わり、銀行にお金を借りようとしたところ、RCでないと貸せないと言われるわけです。当時5階建の木造建築なんて存在しないのでどこに見積もりを出しても高い金額しか出てきません。それでおよそ10年間、プロジェクトは塩漬けになってしまいました。それでもクライアントさんは粘り強く木造で実現させる道を探られ、時代が変わり国交省が実験的な木造建築に補助してくれるようになり、建てられたという経緯でした。
 

「下馬の集合住宅」外観。(photo = 淺川敏)


— 西田司さんと中川エリカさんが設計した「ヨコハマアパートメント」を思い出すエピソードですね。横浜の戸部で木造アパートをたくさんつくられた方が最後に新しいタイプの賃貸をと彼らに発注したそうです。「下馬」もお施主さんの根比べでようやく実現されたとのことで、感動的な流れですね。
 

設計者が知っておくべき、木造防耐火の新制度と火のまわり方

 
— ここからは木造防耐火にまつわる法律や技術について、設計・実務の現場におられる皆さんにわかりやすく、発想の起点になるようなお話をいただこうと思います。まずは最近なされた法改正の概要を教えてください。
 
安井:2019年の法改正の内容とは簡単にいうと4階建までの木造建築は太い木材、厚い木材を用いるか、もしくは木を石膏ボードで被覆するか、このいずれかで建てていいというものです。これまで3階建だった条件が4階建まで緩和されました。つまり4階建でも安全に設計できるということが実験で検証され、緩和に至ったのです。
 

耐火建築物同等性能の高度な準耐火構造の登場。


— このように法律が変わってきた背景とは?
 
安井:安全だと確認されれば、それを法律に落とし込んで設計してもよいというのが現在の法律の基本的なスタンスで、その大本となるのが2010年にできた 「公共建築物等の木材利用促進に関する法律」です。さらにさかのぼると1950年にできた建築基準法は「大規模木造は都市ではやめましょう」という内容でした。それが1980年代の基準法改正で 「燃えしろ設計」という考え方が導入され、一定基準を満たせば大断面集成材を用いた大規模木造建築物が建設できるようになりました。その延長上で、2019年の法改正があるわけです。
 
— 新たに大型木造建築に取り組む実務者の方にはコストや工期などに不安があると思いますが、何かアドバイスはありますか?
 
安井:たしかにメリットがないと、なかなか木造化はされませんね。実際、法改正から2年経っても1棟も適用されていないのです。また法令がどう変わったのか、設計者に情報が行き渡っていないという課題も感じます。
 

建築防災協会のリーフレット。製作に安井さんも関わった。

 
— 国産材を使いましょうと国が支援するくらいでは十分なメリットになりえないわけですね。材料の寸法も大きくなりますしね。
 
安井:大きくなります。具体的には柱が最低33cm角になるんですよ。今まで12cm角で建ててきたのにいきなり33cm角からスタートって言われるのだから、どこでいくらでつくれるのという話になりますよね。
 
— 有効面積が削れてしまうのではないかという不安も、特にクライアントさんにはあるでしょう。
 
安井:木造をやっている方から見るとそうですが、逆に鉄骨をやっている人からみると鉄骨と同じくらいの断面で木造がつくれるのかと前向きに捉えるそうで、だからどちらかというと住宅ではなく4〜5階建の鉄骨造やRC造を手がけてきた方が積極的に取り組もうと思われるようです。
 
— 差別化できるということで取り組まれるわけですね。でも2年経って物件ができていないというのは気になります。国による推進はなされていないのでしょうか。
 
安井:されています。林野庁や国交省が関わって賞を出したり、いろいろなことがなされているのですが、結局は4階建ではなく、3階建の中で大規模なものなどが表彰されています。また現在は構造材が露出していなければ何階建でも建てられるので、今横浜で11階建の木造ビルをスーパーゼネコンさんが建てています。あれは木材を太く厚くするのではなく石膏ボードで巻いて耐火被覆する考え方ですね。その考え方を採用すれば何階建でも問題ないという解釈が可能です。
 
— 以前坂茂さんが日本の防耐火の法令が厳しすぎる、ヨーロッパと日本の火が違うはずがないのになぜこんなに過剰な縛りをするのかとおっしゃっていましたが、段々と状況は整いつつあるわけですね。
 
安井:整ってきていますね。そもそも日本の法律の大前提には地震防災があります。地震によって消防車がたどり着けないという状況を踏まえて考えられています。そういう意味でヨーロッパとは地域的な背景は異なるというのはあります。しかし今回の法改正では、消防車が駆けつけて消すまでの時間に建物が残っていればいいという考え方まで入ってくるなどかなり緩和されつつあります。
 
— 防耐火は防水とも隣接する課題だと思います。軒と樋、屋根と壁など隣接する部分でそれぞれ火と水に対応する必要があるからです。統合的に捉える視点が重要なのではないかと思われますがいかがでしょう。
 
安井:雨は重力に従い上から下に落ちますが、火事は高温の空気が浮力で下から上に上がっていく。方向は逆ですが、同じ目線で考えておく必要があると思います。たとえば軒が出ていることで雨水が切れると同時に炎が2階の窓まで入りにくくなる。だからバルコニーや軒が出ていることは防火的にも効くわけです。
 
— これまでは光や風を可視化しながら設計されてきましたが、同じように火や水のこともイメージできるとよいですよね。
 
安井:そうですね。火事というものを普通の人は見たことがない。よく知られている火事というのはテレビで流れてくるような燃えさかる映像で、そのイメージで木造=燃えるという思い込みがあるのですが、実は柱がいきなり燃えるような火事はなく、キッチンのゴミ箱や天ぷら油など、構造とは関係のないものからスタートします。それを見たことがあるのは火を着けたことがある人だけなのですが、実はそこが重要。どう燃え広がっていくのかを知っていると、ここに燃えるものがあるとアカンなとわかってくるんです。
 
— 火の伝わり方があまり周知されていないのですね。
 
安井:イメージができないのだと思います。縦方向の空間がつながっていると天井高があってよいと思われるかもしれませんが、防火面では一気に煙がまわるのであまりよくないということになります。また防犯用のフラッシュ戸の扉が閉まっているだけでも10分間、炎が向こう側に行かないんですよ。扉1枚閉めているだけで、煙と炎に追いかけられることを防げます。そのことがあまり知られていないのは、防火が建築基準法ありきで動いているので、それに合わせておけば安心だと思われるからだと思います。そうではなく燃え方を知ると、どこで区画すべきかという設計が可能になると思います。
 

準耐火壁材の開発プロセスと、大型木造・木質建築の動向

 
谷田:ここからはタニタハウジングウェアから私と飯島が参加し、我々と安井さんがどのように協働してきたかをお話したいと思います。我々は10年以上前に初めて安井さんにお会いして、勉強会に参加させていただくなど縁を深めていきました。協働は、準耐火の壁材を開発した際に安井さんに相談させていただいたことにはじまります。
 
飯島:住宅分野で設計事務所への貢献度を高めたいという思いから壁材の開発を行い2013年に発売したのですが、その商品に対し「タニタさん、防火認定ってある?」と問い合わせをいただくことが増え、その当時は防火のボの字も認識がなかったので回答ににっちもさっちも行かず、安井さんにご相談したのがきっかけでした。
 
安井:そうですね。最初は断面構成をどうするかという話からはじめました。下地に石膏ボードを貼れば防火対応はできるのですが、壁の屋外側に石膏ボードを貼るのを嫌がる人たちもいるので、それ以外のたとえば合板を使えないかなどと検討をはじめました。
 
飯島:安井さんにいただいた技術的アドバイスや市場の疑問点は、 弊社に持ち帰って営業やマーケティングチームと設計事務所さんにヒアリングすることにしました。 そこから断面構成をどうするか、いろいろと調査しては相談させていただくことを繰り返して、安井さんからのアドバイスを腑に落としていきました。
 
安井:準防火地域における2階建の住宅で外壁に使うには「30分間室内に燃え抜けない」性能が必要です。最初は安全を見て、合板の厚みを12mmか15mmで提案しました。しかしタニタさんからは、9mmでいきたいという話が出てきたという流れでした。
 
飯島:厚いものがよいのか、購入しやすいものがよいのかと検討し、9mmが使われるケースがあると耳にしたので、ご相談させていただいた記憶があります。
 
安井:柱の外側に9mmの合板と防水層、通気層、0.35mmのガルバリウムしかないので、防火構造としてはどうかなと思いました。でも実際に試験してみると、性能がよかったんですね。熱が加わるとガルバリウムの製品は動いて隙間が空いてしまうことが多く、薄い合板1枚では足りなくなります。しかしタニタさんの製品は最後まで嵌合されたまま残っていたのがポイントでした。僕はコンサルティングという立場ですから安全側の意見を述べますが、最後みなさんが「これでやりましょう」と決定されたので、僕の責任は大きくはないということもあり、チャレンジできた仕様です。
 
飯島:アドバイスはいただいたけれども決めたのは我々ということで、最終的には9mmでお願いしました。
 
谷田:その後、45分準耐火構造認定取得にも挑戦しました。
 
飯島:そのときは中に使う断熱材の構成についてもアドバイスをいただきました。最初はグラスウールに絞って取得しました。しかし直後に「ロックウールも使えないか」とお客様から問い合わせが増え 再び相談させていただきました。「法律上テストしなくても認可が下りるケースがある」とのことで安井さんにご協力いただいて、グラスウールまたはロックウールで認定を取り直すことができました。
 
安井:45分準耐火構造とすると住宅以外の用途にも使えるようになります。実際に最も建てられている45分準耐火建築物は保育園だと思われますが、そうしたものにも使えます。ガルバリウムは厚みを変えようがないので、裏側の合板の厚みで調整をしました。
 
飯島:その後も設計事務所さんの声を聞き、困ったら安井さんに相談するという流れで数年間お世話になって参りました。
 
— 最後、注目する大型木造の実践者の寸評をお願いします。たとえば坂茂さんは日本のアカデミックの縛りがないからこそ、思ったことをインターナショナルにできているように思えますが。
 
安井:坂さんは海外で実績があるので「なんでこれが日本でできないの?」と耳の痛いこともおっしゃるのですが、一方で国内でも多くの木造建築を実現され、今の法律の中でできることを理解し、先導していらっしゃる。トップランナー中のトップランナーですね。
 

「タメディア新本社」(設計:坂茂 / 2013 / photo=Melissanews)


—「タメディア新本社」(2013年)がスイスに竣工したときにはみんな腰が抜けました。日本でも実績が多く、まだ「燃えしろ設計」の時代にチャレンジブルだったのが「ジーシー大阪営業所」(2000年)ですね。
 
安井:そうですね。特殊なルートでつくっておられました。
 
—あれを転機にシェル構造に展開されたり、最近では山形の「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」(2018年)という木造のホテルもできています。
 
安井:面積が大きくなるほど多くの法律がかかるので、山形のホテルでは分棟にされることで木材をなるべく耐火被覆しないようにしているのだと思います。
 
—内藤廣、隈研吾、若手ではSALHAUS、マウントフジ アーキテクツ スタジオなどが木造建築に挑戦されています。
 
安井:今言われた方々と協働させてもらうことがありますが、新しいことがしたいというのもあってすごく勉強熱心で、今何ができるのかとすごく聞かれます。たとえばCLTなどの新しい木質部材が使えるようになると建築家の方々がそれを一番先に使って面白いことをやるという流れになっているので。
 
—葉祥栄さんなど昔木造に挑戦されていた方が、再び活躍されるのではないかという気もします。
 
安井:1980年代くらいに大断面集成材が用いられた「第一次木造ブーム」の後、大断面集成材が下火になりましたが、今もう一度いろいろな場面で使われるようになってきたという状況ですね。ただ他の人と違うことをやらないといけないという使命感が強すぎて、誰も真似できないものになっているので、木材利用を推進する上での汎用性という意味では、追いつきにくい気もします。
 
—大型木造、木質建築から目を離せない時代になりつつあります。
 
安井:2050年カーボンニュートラルの実現という目標に向かって木材利用はどんどん進むと思います。今はゼネコンさんが上に合理的に伸ばすための試行錯誤をされていますが、逆に3階以下は、ここを押さえれば鉄骨・RC造よりも安くできるというノウハウが集まっているので、コンスタントに増えていくと思います。

特集の背景と意図について

 
近年、木造木質建築の進展が著しい。木造施設への待望感も高い。そして、木造への関心も一過的なものでなく、恒常的に深く広く定着しだしている。こうした背景をふまえて、WEBマガジン「雨のみちデザイン」では、複数年に渡るレンジから、特集「木造施設への期待と課題」を設定し、多角的に発信していきます。また、木造建築とはせず、あえて「木造施設」を主題とし、更に一歩踏み込んだ「木造」へのアプリケーションを明確にしていきます。
 
これまでも「雨のみちデザイン」では特別対談として、「屋根の時代を巡って-近代の底が抜けた時代からの再生」五十嵐太郎✕堀啓二(2018年・夏)、「構法から探る木造建築の過去と未来」門脇耕三✕堀啓二(2021年・春)を配信し、木造への議論の地均しをしてきました。新シリーズでは、木造に関わるキーマンたちからの発言、指摘、提言が木造施設建設へのコンセンサスを築いていくことになるでしょう。
 
新シリーズの第一弾は、防耐火のエキスパート安井昇さんへの取材となります。木造建築での防耐火法令の動向を踏まえ、木造建築への可能性を語っていただいた特集のスタートに相応しいキーマンの登場です。
 
本記事は既にYouTubeチャンネルで配信されたものに追記や資料を加えたものとなります。動画と合わせてぜひ、ご覧ください。
 
真壁智治(雨のみちデザイン企画・監修者)