雨と生きる。雨を活かす。雨の文化創造を考える。

 
presented by  株式会社タニタハウジングウェア


谷田泰(たにだ・やすし)
 
1964年10月26日生まれ。(株)タニタハウジングウェア代表取締役社長、NPO法人緑のカーテン応援団副理事長、(株)タニタ社外取締役、(株)吉岡代表取締役。

積み上げてきた
タニタの技術が生み出す
次の時代の雨のみち

 

people 10:谷田 泰 / Yasushi Tanida

 

「雨のみち」にまつわる各分野の人やモノに着目し、「雨」をさまざまな側面から見つめ直すクロスポイントのコーナー。今回は、タニタハウジングウェア代表である谷田泰が、これまでのタニタがあったからこそ誕生した、近年の新製品について語ります。

2017.1.4
 
 

ステンレスと銅のハイブリッド
銅雨といの新しい形「サスク」へ全面移行

 
— 2016年10月に「スーパー銅雨とい」から「サスク」へ軒とい・たてといを全面移行されました。まず、その背景にはどのようなお考えがあったのでしょうか。
 
谷田:タニタハウジングウェア(以下、タニタ)は、銅を扱った雨といをつくりはじめて45年が経ちました。
 最初は、純粋な銅雨といをつくってきたのですが、酸性雨やさまざまな理由によって、銅の谷といの部分に孔があくという現象が、もう随分前から起こりはじめていました。その昔は、銅は一生ものと言われていたのですが、もう普通に銅を扱い提供しているだけでは、ダメになってきたわけです。
 そこで1995年から、私たちは劣化を防ぐために銅雨といの内面に特殊塗料を塗った製品「スーパー銅雨とい」をつくり販売してきました。
 改めて銅雨といの市場を分析してみると、半分はこれまでも銅雨といを使っていた人が掛け替えの際に使用するもの、もう半分が新しい建物に使うものでした。また、これまで銅雨といを使っているお客様が、次に掛け替えるときに、同じ銅雨といを選択しているかというと、100%ではない。一生ものだと思っていた銅雨といが10年、20年で孔あきが起きるなら、塩ビ製でいいよというお客さんも出てきて、非常に残念だなと思っていたのです。もちろんそういった人たちのために「スーパー銅雨とい」をつくったわけですが、見た目が何も変わらないので、それであれば別のものでとなる。これではだんだん銅の市場が縮小されていく傾向にあると危惧してきたわけです。


 
 そんな中、銅とステンレスを熱融着させた材料が入手できるようになり「サスク」という商品(上写真)をつくり、8年前から少しずつ販売をはじめました。この材料を使うと、軒といやたてといなどの加工ができた上に、銅が本来持っている経年美化を楽しむことができる。さらに、内側はステンレスなので、酸性雨に影響されないほどの耐候性を持っています。塗料を内側に塗った「スーパー銅雨とい」とは異なり、「サスク」は見た目にも内側のステンレスがわかりやすく見えているので、その見た目の耐候性が、お客様にも安心感を与えることができます。これからは、板金屋さんや工務店さんだけではなく、住まい手の方々が直接、雨といを選んでいただけるようになればという想いもあったのです。
 
— なるほど。そういう意味ではユーザーにとっては、機能としても、デザインとしても、とてもわかりやすいものになったわけですね。雨といの選択肢が広がったというより、より明確になった。しかし、価格としては、これまでのものと比べてどうなんですか。
 
谷田:価格は、これまでのものと大きくは変わらずにおさえることができました。銅の価格は変動するものなのですが、現状では、「サスク」の価格は、これまでの製品の1割増くらいの価格になっています。
 
— 「サスク」を販売しはじめて、設計者の皆さんに感じられることは何かありますか。 
 
谷田:タニタは、板金業界では“銅雨といのタニタ”と認識されているのですが、どうやら最近の建築家の方々には、“ガルバリウムのタニタ”と認識してくださっている方が多いことがわかってきました。とにかく「ガルバ」シリーズは、いろんなところで採用していただいています。
 しかし、どうもガルバのイメージが強すぎて、たまに「タニタさんは銅雨といもつくっていたんですね」なんて言われることもあるわけです(笑)。ガルバをはじめて15年、銅はその3倍の45年つくってきてるんですけどね。本当に驚かされます。
 もちろん、私たちも自信をもってつくってきていますので、ガルバはガルバで良さはあります。しかし、これから建物が長く使われ、経年変化も楽しむとなっていったときには、銅という選択肢も考えてみてほしいと思っています。ガルバは塗装になりますが、銅は使いはじめると最初は黒くなって、やがて青い緑青になっていきます。銅はそういう金属としての良さを表現できる素材なので、ケースによっては建物の屋根や外壁などにも使えるテクスチャーだと思います。ぜひ、ガルバファンの皆さんにも、新しいステージとして使って欲しいのです。
 
— 「サスク」は異素材が熱融着されているわけですが、それ故に技術的な難しさがたくさんあったと思います。どのような点が、一番苦労されたのでしょうか。
 
谷田:ふたつの異なる金属が複合された材料を扱うこと自体がはじめてでした。とにかく銅と比べると加工が大変でした。
 
— しかし加工が大変だからこそ、その複合金属の組成を活かしたデザインがこれからも可能性があるとも言えますね。独自のフォルムや耐候性を加味した銅の効果など、今回の「サスク」の登場は、この先にもタニタオリジナルの製品が生み出され続けていくのではいかという期待を持たせますね。
 「スーパー銅雨とい」から「サスク」へ軒とい・たてといを全面移行して、営業のスタイルとして何か変わったことはありますか。
 
谷田:昔は、純和風の建物に銅の雨といが付くことは決まっていました。だから、どこのメーカーの銅雨といにするか、もしくは板金屋さんが手作りでつくるかの2つの選択肢だったのです。建物が竣工しても施主は、雨といがどこのものかわからない。そういう世界でした。そういう時代にはタニタは主に施工店にPRしていたわけです。銅雨といを使うなら、タニタのものを使ってくださいと。
 もちろんそういう時代は終わっています。これからは設計士さんや住まい手の人たちに指定してもらうことで、市場に流れていかなくてはいけません。だからこそ長く住まい続けるときに、雨といは大事なものですよと訴えていくことも大事だと考えています。
 
— 「サスク」を販売しはじめて8年。そしてついに軒とい・たてといを全面移行したわけですが、これからはどのような展望をお持ちですか。
 
谷田:展望というか希望に近いものがふたつあります。
 ひとつは、タニタの「ガルバ」を使ってくれている設計士の人たちが、ときどき「サスク」を使ってくれるようになればいいなと思っています。たとえば、少しお金をかけて建物をつくりたいというお客さまがいたときに、じゃあ、タニタの「サスク」を使いましょうとなってくると面白いなと思っています。
 もうひとつは、今回のように新しいものを出すと、必ず私たちの想定外の使い方をしてくれる方が出てきます。だから、皆さんの頭のなかにタニタの「サスク」が残っている人が、これから「サスク」をどういう風に使って表現してくれるかが、とても楽しみなんです。そういった事例に早く出会いたいです。

タニタの技術力が結集させた、
可愛らしさも合わせ持つ、くさりとい「ensui」

 
— 2016年10月に発売されたくさりとい「ensui」が、2016年のグッドデザイン賞を受賞されたそうですね。
 
谷田:グッドデザイン賞は25年振りの受賞となりました。実は私が入社する前、先代の時代に受賞しました。それからは一度も応募していませんでした。ただ展示はいつも見に行っていました。するとだんだんただ綺麗にデザインされているだけでは評価されていないことがわかってきたので、くさりとい「ensui」であればと思い、急遽チャレンジすることにしたのです。本当はベスト100に入りたかったのですが、そこはハードルが高かったですね。受賞式に行ってみると、各社が想像以上にデザインを極めていこうという想いを大きく持っていることを痛感しました。とても感化されました。
 


 
— くさりとい「ensui」という、単純で地味な存在である住宅の一部品が、表舞台に出たということが画期的でした。カラーもこれだけのラインナップがあるのですね。
 
谷田:このくさりとい「ensui」がもうひとつ面白かったのは、タニタの商品の中では、唯一一緒に記念撮影ができるんですよ。そんな商品は、いままでタニタにはありませんでした。
 

 
— このくさりとい「ensui」には、ある種のキャラクター性があるように思います。“○○のような”という見方が誰にでもできてしまうのでしょう。見方によってはカワイイ。特にこの一番上の径のサイズと角度が絶妙だと思います。これらの角度もすべて水の流れを計算して導きだされたものなんですね。
 
谷田:そうです。 形状は全て、水を流れやすくすることを突き詰めてつくられた形になります。今、くさりといを使っているものを簡単にこれに変えることもできるので、徐々に使用してくれる方が増えてきています。先日もある工務店さんが雨の日に「ensui」の動画を撮って、「音も良い!」とネット上にアップしてくださっていました。そうやって、表に出てくる商品が生まれたことはとても嬉しいことです。
 

 
— 「ensui」を、一つ一つ手に取って見ても、とても綺麗です。これも秋田の工場でつくられているのですか。
 
谷田:そうです。 秋田の工場で、頑張って全部一枚の板からつくっています。詳細は秘密なのですが、一枚の板からこの絞った形に持ってくるまでに相当なプロセスがあるわけですが、そこにたどり着くまでに、相当な試行錯誤がありました。

 こういったものづくりができるのも、タニタという会社のスタートが銅を扱っていたからです。私たちは、銅によってお客様に鍛えてもらってきました。それが常にタニタに対する要求につながっていました。新しい製品を作ろうとすると、常に「タニタらしくない」と言われてしまうのです。他のメーカーには言わないことを、私たちには言ってきてくださる。だからこそ、こういう商品を生み出すことができるのです。まさに銅とお客さまがあってこそ、ものづくりに対するきちんとした物差しが持てているのだと思います。

 

非住宅木造建築にも対応した
ひとまわり大きな箱形軒とい

 
— 最後にタニタの意欲的な商品のひとつであるガルバリウムの「HACO H12号」に注目したいと思います。この製品は、今回サイズの大きなものをつくられたのですね。やはり、近年の木造の大屋根ニーズに合わせてつくられたのでしょうか。
 
谷田:ガルバリウムの雨といの「HACO」は、これまでもあった製品です。これは主に住宅用として販売しているものなのですが、最近では、たとえば園舎などの木造住宅など、住宅以外にも使われはじめるようになっていました。一方で、これからは、非住宅の木造建築が増えていく時流でもあります。屋根のある住宅以外の建物がこれからは増えていくとみられています。それであれば、住宅よりも大きな建物の軒先で使える、少し大きな軒といがあってもいいのかなと考えて、これまでの「HACO」より大きなサイズをつくることにしました。
 


 
— 単純に軒といが大きくなると、設計上どのようなメリットがあるのでしょうか。
 
谷田:軒といを大きくする最大のメリットは、たてといの本数を減らせるということです。住宅と異なり、非住宅となると、より開口を大きく取りたいということになってきます。たてといもどこに落とすかが大きな問題になってきます。そういうときに、上手く配置することができれば、たてといの数を約半分にすることができます。これは設計において大きなことです。最近ようやく市場と結び付きはじめてきまして、学校など、いくつか建築家の方の設計する建物に採用いただく機会が増えてきています。
 
— 特に木質系の建物には、この余計なデザインをあえてしていない「HACO」が似合います。だからこそ、木造の住宅よりも少し大きな建物には必須になってきそうですね。
 
 今日は3つの製品を取り上げさせていただきましたが、どれも製品が取り付く用途や場面が、より明確になった製品づくりを、近年のタニタはされてきたのだと実感しました。また、これまで銅を扱ってきた45年に渡る職人さんや工場の皆さんの知識と技術が、確実に新しい製品に活かされていると同時に、確実にデザインのクオリティが上がっていることが、とても評価できると思いました。
 建築を巡る時代の様相も次第に屋根に感心が向く事態にありますね。これからの「雨のみちデザイン」も一層、面白くなり、目が離せないことになっていくのではないでしょうか。今日はどうも、ありがとうございました。
 

(収録:2016年11月8日(火)タニタハウジングウェア本社にて)