建築家、堀啓二さんによる連載「雨のみち名作探訪」。第12回に取り上げるのは、建築家・安藤忠雄の雨のみちの2回目です。独学で建築を学び、1969年に事務所を設立した安藤忠雄と、同じ時代を席巻した建築家たちのコンクリート打ち放しによる住宅の“雨のみち”について、さらに見て行きましょう。

2022.1.1

text 堀 啓二(共立女子大学 家政学部 建築・デザイン学科 教授)
 

安藤忠雄の雨のみち 2

 
 第2回目を執筆するにあたり、東京に建つ安藤建築詣でを行いました。東京には現存する約35件の中から、「広尾の教会」「表参道ヒルズ」「コレッツィオーネ」「メルローズ本社ビル」「COCUEオフィスビル」「仙川デルタスタジオ」「仙台アヴェニューアネックス」「調布市せんがわ劇場」「せんがわ保育園」「フォレストプラザ表参道」「シティハウス仙川」「シティハウス仙川ステーションコート」「伊東邸」「西麻布の集合住宅」「中野の集合住宅」を巡りました。そこで発見できたのは、徹底した樋の4つの特徴でした。
 

(1)まっすぐにのびる樋
(2)地面から生える継ぎ目のないまっすぐな樋
(3)パラペット天端まで伸びる対の樋
(4)フレームに隠蔽された樋

 
 この特徴により、樋はファサードの一部となりより豊かな表情をつくり出しています。それでは、4つの特徴についてそれぞれ見て行きましょう。


 

1.まっすぐのびる樋

 
 前回、コンクリート打放しの住まいにおける樋の話をしました。
 
 現在でもコンクリート打放しの住まいは数多くつくられています。打放しは、型枠の状況と、作り手の気合いを素直に仕上がりに表します。昔の打放しは荒々しくて、どれもが個性的でワクワクしたのを覚えています。しかし、今では打放しの補修技術は頂点に達した感があり、まるでコンクリートを描くように補修されます。この補修技術は安心感がある反面、施工制度は下がっているようにも思えますし、型枠を外した時のあの感動は少し薄れているかもしれません。
 
 補修技術が上がってしまったが故に、設計者も施工者もコンクリート打設時の緊張感が薄れしまっていることは、とてもよくない傾向です。そして、いつしか打放しは「荒々しい」というよりも「繊細で均一化した美しさ」となってしまいました。私たちは、均一化した美しさに人工的なものを感じてしまいます。もちろんコンクリートは「人工物」なのですが、私は施工状況を反映する「自然物」と考えています。だから、コンクリートを打放す際は、補修などせずに型枠を外したありのままの自然の姿をつくりたいものです。
 
 話が少し横道に逸れましたが、コンクリート打放しの綺麗な建築が増えているのですが、そのほとんどには樋がないのが現実です。外部に樋がないということは、樋が内部に隠蔽されているということです。しかし、雨漏りのことを考えると樋は外部に露出されるべきです。
 
 前回、安藤忠雄の処女作と言える「住吉の長屋」の樋の話をしましたが、外部の見えない部分にしっかり樋がデザインされていました。外部で処理をして、横引きドレンをT字菅で受け、さらに竪樋がパラペット天端まで伸びて垂直性が強調されている。そうすることで、樋と感じにくくなっていました。通常は「エルボ」「呼び樋」などで曲がる場合が多く、ファサードの表情を乱しがちです。しかし、安藤忠雄の樋は曲がりはありません。徹底して直線のみのまっすぐのびる樋で構成されています。
 

2.地面から生える継ぎ目のないまっすぐな樋

 
 最近は既製品の美しい樋が、数多く販売され使われています。しかし、既製品はパーツ(軒樋、集水升、呼び樋、竪樋、継手)の組み合わせをアッセンブルして使用するため、ジョイント部は差し込み式の納まりになっているので、目地だけはシンプルに納まるものの、必ず継ぎ目が出てしまいます。
 
 それがもっとも樋として見えてしまうのが躯体に支持するための「デンデン」です。せっかく差し込み式ですっきり収まっていながらデンデンの帯が出てしまい樋感が満載です。それを解消したのが、「バンドレス」というアルミの樋です。丸樋にレールがついていてどの位置でも指示が可能でデンデンの帯が必要ありません。それでも目地は残ります。
 

 
  安藤忠雄の樋は徹底していて目地がありません。横引きドレンに接合する T型の部分もすっきりと納まっています。スティール製のジョイント部が溶接し磨かれた上に塗装されているためです。足元は、竪樋より一回り大きいサイズの塩ビ管が地面に埋め込まれ、それに差し込まれることが一般的です。しかし、それで納まりとしては美しくありません。
 


  そうではなく、 安藤忠雄の樋は、地面にそのまま刺さっています。まるで地面から生えてきたようです。溶接は現場でも行われていると思われます。養生等とても神経を使う作業です。職人さんの苦労がそのまま美しさに直結している素晴らしい樋です。
 

 

3.パラペット天端まで伸びる対の樋

 
 樋は受ける雨の量により本数とサイズを決定します。雨は高いところから低いところへと流れます。屋根、軒樋には勾配は必要です。特にフラットルーフの場合、勾配が緩くなりすぎないように、樋の位置は屋根の受け持つ面積を少なくするために極力分散して配置します。
 
 竪樋は一本毎に離れて配置されるのが一般的です。この一本という印象が樋を想像させてしまいます。例えば 柱で一本は柱を感じさせますが、柱が対になると、柱と感じずひとつのデザインとして捉えられます。
 


 
 安藤忠雄の樋はそのほとんどが対になっています。 対になっている効果から雨樋というよりも、ファサードの一部として感じられます。この樋はパラペット天端まで伸びます。ドレンの接続部は下の方で、その上は全てフェイクになっていて、樋の役目は全くありません。この徹底した空まで伸びる伸びやかさが、雨樋を感じさせないというわけです。
 

4.フレームに隠蔽された樋

 
 上記の3つの特徴は、 樋をファサードの一部として徹底して使われている手法ですが、これはかなり特殊な例です。「 シティハウス仙川ステーションコート」に使用されています。
 

 格子状のフレームと格子から伸びる2層の列柱が特徴の、端正でありながらリズミカルなファサードです。普通であればバルコニー先端で集水した雨を呼び樋で第2構面の竪樋に接続します。今回は前面に格子があるので、あまり気になりませんが、呼び樋は戸境を外れた位置に来ることになり綺麗に納まりません。
 
 しかし どんなに目を凝らして見ても呼び樋、竪樋が見当たりません。それがフレームの美しさを際立たせています。「雨のみち」は、どこにあるのだろう?とつぶさに観察していると、上から 2層目のバルコニーの呼び樋がフレームに入っているのが見えました。なんと竪のフレームはコンクリート打放しではなくフェイクだったのです。
 

 一階はピロティになっていて、フレームの後ろ側を見ることができます。目地が見えました。足元の植栽側にも配管が見えます。これを見て納得しました。フレームはコの字の PCでその中を竪樋が通っています。フレームの後ろに樋を隠す例はたまに見ることはありますが、樋自体を隠す徹底さには頭が下がります。
 
 一度決めた手法を繰り返し使うのはかなり度胸がいります。技術は進歩すると、古い印象になることもあります。対に樋を設けるという簡単な手法ですが、この簡単な手法こそ飽きのこない普遍のデザインかもしれません。やはりシンプル・イズ・ベストですね。
 
 次回は、型材を駆使したシャープな樋について、話をしたいと思います。

著者略歴
 
堀 啓二(ほり・けいじ)
 
1957年福岡県生まれ。1980年東京藝術大学美術学部建築科卒業。1982年同大学大学院修士課程修了。1987年同大学建築科助手。1989年山本・堀アーキテクツ設立(共同主宰)。2004年共立女子大学家政学部生活美術学科建築専攻助教授。現在、共立女子大学家政学部建築・デザイン学科教授、山本・堀アーキテクツ共同主宰、一級建築士。
 
主な作品に、大東文化大学板橋キャンパス(共同設計、日本建築学会作品選奨、東京建築賞東京都知事)、プラウドジェム神南(グッドデザイン賞)、二期倶楽部東館(栃木県建築マロニエ賞)、工学院大学八王子キャンパス15号館(日本建築学会作品選奨)、福岡大学A棟(共同設計、日本建築学会作品選奨)ほか。
 
主な著書に、「図解 雨仕舞いの名デザイン」(学芸出版社)「家づくりのきまりとくふう」(インデックスコミュニケーションズ)、「断面パースで読む「住宅の居心地」」(共著/彰国社)、「窓廻りディテール集」(オーム社)ほか。