雨と生きる。雨を活かす。雨の文化創造を考える。

 
presented by  株式会社タニタハウジングウェア

平賀信孝(ひらが・のぶたか)
 
1949年 東京生まれ。1971年 東京藝術大学卒業。笹川スエオ設計事務所、芦原建築設計研究所勤務を経て、1987年、アーキネットワークを設立。1998年より坂茂建築設計のパートナーとなる。
 
1990年JA環境デザイン・コンペティション最優秀賞。2001年『ハノーバー万博2000日本館』で世界建築賞(ヨーロッパ・公共文化の部)、同年『GC大阪営業所ビル』で日経ニューオフィス賞、2003年『今井篤記念体育館』でアメリカンウッドデザインアワード Best of Non-Residential、2009年『ニコラス・G・ハイエック・センター』で日本建築学会賞 作品部門など受賞多数。
 
LINK: 坂茂建築設計 | Shigeru Ban Architects

 

08:平賀 信孝 / Nobutaka Hiraga

 

このコーナーでは、建築家の方々に登場いただきながら、"雨のみち"のコンセプトや方法を、実際の作品に即して話をうかがっていきます。第8回のゲストは、建築家の平賀信孝さんです。平賀さんは、建築家の坂 茂さんのパートナーとして、坂茂建築設計の右腕として、建築を世界中に創り出してきました。坂 茂さんは、2014年には「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞を受賞。世界の人々を惹きつけてやまない建築を、今回は「雨」という側面から迫ります。

 
 

アイデアを具現化させるための、雨のみちデザイン(前半)

2015/06/02
 
 

雨のみちを理解する

 
----- 坂さんと平賀さん、お二方のこの珍しいユニットはどんな経緯で生まれたんでしょうか? そもそも平賀さんは、芦原建築設計研究所にいらっしゃったんですね。
 
平賀:はい。そのころ芦原義信先生(1918-2003)は、<東京芸術劇場>(1990)などを手掛けている時期でした。その後、僕は少し遅くて38歳で独立して、ぼちぼち仕事はあったんですが、ある時親しい友人に坂 茂って若い建築家に会ってみないかって言われたんです。SDレビューの展覧会で彼の模型を見たことがあって、その模型は他を圧倒して光っていた。それをつくっていたのが彼でした。
 そうしたら、ある造船所の再開発の設計を建築家のエミリオ・アンバース(1943-)の代わりに坂がやることになったと。けど彼は、まだアメリカから帰国したばかりの27、8歳のころで、手持ちの仕事といえば住宅がふたつと、この事務所が入っているBANビルの設計くらいでしたから、そんな大きな10万平米もの仕事をどうしたら良いかわからなかったんですね。それで会った瞬間に一緒にやりましょうということになったんです。
 それでつくった会社が B.A.N 坂が「B」、私はアーキネットワークという会社をつくっていたので「A」と「N」、ふたつの会社を足したネーミングにしました。でもみんなバンとしか呼ばないんですよ(笑)。僕もわかっていて乗ったんですけどね。最初の2、3年はこのビルの1階で一緒にやっていて、すごく楽しい時代でしたね。ところがその造船所の方は社長がお亡くなりになって、打ち切りになってしまったんです。
 
----- そうした経緯を経て、平賀さんと坂さんが二人で事務所を運営していくわけですね。
 
平賀:その後、アーキネットワークは忙しくなってスタッフも増え、BANビルの1階に入りきらなくなったので、外に出ました。本当にふたりで一緒に事務所も運営し始めたのはそれから7年後のことです。

建築を支える屋根・床・壁

 
----- 平賀さんと坂さんの役割は、基本的にはどのような関係なのでしょうか。
 
平賀:簡単に言うと、坂はアイデアを出す人で、アイデアを実現させるのが私の役目だと思っています。なので、もちろん坂のアイデアにも関与していくし、具体的なつくり方にもいろいろと関与していくことが多いです。
 
----- なるほど。今日は「雨」の話についてうかがいたいのですが、その前に、坂さんの建築を支えている屋根・床・壁についてうかがいたいと思います。
 
平賀:事務所を結成して最初の方に、<GC大阪営業所ビル>(2000)を設計しました。歯科器材をつくる日本のトップメーカーの営業所で、細長い敷地に対して細長く建物を配置して、長い辺に垂直緑化の緑の壁を設けているんです。
 

<GC大阪営業所ビル>(2000)
(写真=平井広行)

----- この建物では樋はどのようにしていますか?

 
平賀:この建物は既成のカーテンウォールを使用しています。フラットルーフの建物では、あまり雨仕舞の心配をしたことはないですね。屋上のルーフドレインから内部に引き込み、たて樋は建物の中のPSに入れています。ただ、この場合は結露防止については考えなければいけないと思っています。
 
----- 樋は外からはあまり見えていません。
 
平賀:タニタさんには申し訳ないのですが、樋は立面には出したくないなと思っています。見せなくていいものは見せないで、すっきりとまとめたいので、なるべくコアの中とか、極端な話、柱の中などに入れたりしますね。当然、後で錆びたりしないように、細心の注意をはらって設計します。
 
----- これまで設計されてきた建築には、パビリオンも含めて、今に至るまでに抽象的な屋根がいくつか出てきてますね。
 

<今井病院付属託児所>(2001)(写真=平井広行)

平賀:そうですね。例えば、設計したものに <今井病院付属託児所>(2001)という秋田の病院の託児所があります。秋田だからというわけではありませんが、結果的に曲げわっぱのようなイメージになりました。LVLという積層した材料を用い、トンネルヴォールト状にたて横のLVLで編んだように構成しましたが、LVLが分厚いので、重ねただけですが、その重ねたすき間からふわーっとした光が差し込んで、子どもにとっては良い空間になったと思います。この屋根はヴォールトの面外方向の補強としての立体トラスに、外皮としての半透明の屋根を乗せることでダブルスキン空間をつくり、結果として冬の断熱や夏の熱気抜きにも有効な屋根になりました。

 
----- かまくらのような感じですね。
 
平賀:そうですね、室内に籠って遊ぶ子供もすごく解放された気分になれそうですよね。この後、同じクライアントで<今井篤記念体育館>(2002)も設計させていただきました。
 

<今井篤記念体育館>(2002)(写真=平井広行)


広さは、バスケットコート一面プラスアルファぐらいで、特段大きくはないのですが、スパンが20メートルぐらいあるんですよ。LVLで、6センチ厚のものを曲げたものを2本使って、それを同じく6センチの板で結んでつくったトラスを繋げていきました。すると隙間から光が降りてきて綺麗に見せることができました。壁は運動中の人がぶつかっても痛くないように合板で造り、そこにパンチングメタルのように穴を開けました。その裏に吸音材を仕込み音響面の配慮をしました。音楽コンサートなどもここでよく行われています。
 
----- 雨仕舞はどのようにしていますか?
 
平賀:LVLのトラス部分は鉄板葺きとし、トラスとトラスの間から光を入れるためポリカーボネートを2重にして結露を防いでいます。十年以上経ちますが、今の時点では漏ったという話は聞いていません。
 
----- 雪国は漏ることよりも、結露対策が重要になってきますね。

 

コンセプトを実現可能にする雨仕舞

 
平賀:坂事務所のつくり方というのは、まずコンセプトありきなんです。機能があって、それに対してどうやって満たしていくかという、いきなり鉛筆でプランニングをするのではありません。どんな空間にするか、どんな素材を使うか、あるいはその場所の持つ力をどう受け止めるかといった、大きな所から入っていってから、クライアントの要望に対してどう応えるかという大きなコンセプトをまず出します。しかし純粋なコンセプトは往々にして現実の条件とは折り合わないことが多い。そこでさまざまな問題を解決しなければならない。それが、我々がいつも抱えている問題ですね。コンセプトをいかに素直に表現できるかということだけを考えていくと、考え付かないような非常識なディティールが結構出てきます。その時に、雨が降るとか、風が吹くとか、結露するといったことを、おざなりにしないよう気をつかいながら現実の自然条件との調停作業を繰り返します。
 

<ポンピドー・センター-メス>(2010)(写真 = Didier Boy de la Tour)


 例えばフランスのメスに建つ<ポンピドー・センター-メス>(2010)などもそうでした。長さ90m、幅16m、高さ8mぐらいのギャラリーチューブと呼ぶものを、3つ用意しまして、それぞれを45°ずつずらしながら重ねていきました。そうすることによって、下に様々な大きさの空間ができて、巨大なオブジェやアートが入れられるようにしています。まず、パリの<ポンピドー・センター>の天井高が5mぐらいしかなかったので、そこでは飾れない大きなアートを展示できるスペースをつくるというのが最初の目標だったんですね。その目標を解決するために、この形になりました。これがひとつ目のコンセプト。
 さらに、その3つのギャラリーチューブから、例えばカテドラルといったメスの街の有名建築が切り取られて見えるように狙っています。そこを訪ねた人々は、「あれは今朝礼拝したカテドラルだわ」というふうに、またワクワクすることができます。メスの街は、過去にドイツ領になったり、フランス領になったりしていたため、様式的に非常にユニークな建物があるんですね。その建物を生かして街と一体になれるような建物ということが二つ目のコンセプトでした。
 それに対して、建物を大屋根で覆って、フォーラムと呼ばれているパブリックな空間をつくったんです。周りが公園になっているので、公園のランドスケープを取り入れ、カフェもあって、町の人に日常的にパーティーなどで使われるような、開かれた空間とする。さらに、アートと町が一緒になるようにオープンな美術館を町に開放するというのが3つ目のコンセプトでした。これら3つのテーマが一気に実現されているんですね。これが坂のコンセプトの強さだと思います。
 
----- <ポンピドー・センター-メス>の雨仕舞はどのようになっていますか?
 

<ポンピドー・センター-メス>(2010)(写真 = Didier Boy de la Tour)


平賀:<ポンピドー・センター-メス>不燃のテント膜をかぶせて防水をしています。テントは構造体ではなくて木に引っかけています。木は柱状のあたりはコンプレッションですが、基本的には吊られている構造体なんです。6本の柱状の部分があり、へこんだ空間ができるのですが、当然ここに水が集まってきて谷樋のようになります。
 谷の部分に溜まる水をどうやって抜くか、想像できますか? 普通は垂直の樋をとおして下にドバっと落としてしまいます。でも、この建物では蛇腹のような雨樋を使っています。要するにフレキシブルジョイントです。つまり擬態化するカメレオンと同じように、構造体に合わせて雨樋をつくっています。
 
----- なるほど、樋を構造になじませて擬態化しているんですね。動きもあって、ポエティックな見方をすると、物語性も生まれてきそうですね。ちなみに、蛇腹の素材は何なんですか?

 
平賀:設備の配管に使っているもので、ステンレスの既製品が日本にもあると思うんです。免震構造のときに基礎は動かなくても、建物は動いたりしますよね。その際つなげるときに使うホースみたいなものです。これはフランスですから色が日本のものと違います。
 
----- 樋は全部で何か所あるんですか?
 
平賀:これも隠れたコンセプトなのですが、フランスの国土は六角形をしていて、六角形は特別な意味があります。ですから6つの柱があるんですけど、それぞれに安全のために2か所ずつ樋を設置して排水しています。
 
----- これを見て感動を覚えるのは、ストラクチャーが出てきて、そこで初めて雨仕舞というものがでてきているように感じます。そこで普通の解き方じゃない発想を用いているのがすごいと思います。普通ならば、雨仕舞はとってつけたような扱いになってしまいますから。

 
平賀:これは、東京の銀座に建つ<ニコラス・G・ハイエック・センター>(2007)ですが、スウォッチグループの日本の本社で、最上階に多目的ホールがあります。それがこのようにうねっているんです。
 

<ニコラス・G・ハイエック・センター>(2007)(写真=平井広行)


 屋根部分がポンピドー・センターと同じようにへこんでいて、ここに雨が溜まってしまう。どうやって対応しようかと考えたのですが、雨が溜まったら、フレキシブルパイプで抜きましょうということにしました。
 
----- これもすごいアイデアですね。
 
平賀:こういうアイデアが入っているっていうのは、よく見なければわからないですよね。

 

モダニズムを今見直していく

 
----- 現代建築の傾向として、庇などをなくしてしまいがちです。まったくないものも多く見受けられます。
 

<メゾンE>(2006)(写真=平井広行)


平賀:これは<メゾンE>(2006)という邸宅です。綺麗に見せるためのディティールに苦労した建物です。この建物は鉄骨フレームだけの建物と言ってもいいと思います。綺麗な鉄骨のフレームがあって、タータングリッドと言っているのですが、狭いスパンと広いスパンが交互にあって、XY方向が合わさって、タータンチェックのようになっているんです。そこに空間がうまくはめ込まれていて、ご覧のように本当に鉄骨しか見えないんですね。この中に防水や設備を入れなければならず、笠木も小さいので、立ち上がりがこれしかないのにどうやって防水するかを考えていました。
 結局、二重に安全な構造を考えました。防水機能そのものは笠木の下にあって、一次防水を突破して、もし笠木に雨水が入ってしまったときにも、水が外へ出るようにしました。そのため、割とシンプルな鉄骨の構造体だけで全体を見せることができています。梁のすぐ上に笠木があるのですが、斜めにしているのでほとんど見えないようになっています。さらに薄いスラブと天井の間に照明から何から全部入っているんです。
 
----- コンセプトについても、一回トライして、よく検証して次に活かすという、この継続もすごいなと思います。
 
平賀:<メゾンE>の前に、写真家の家<写真家のシャッター・ハウス>(2003)を、同じようなコンセプトで設計しています。
 

<写真家のシャッター・ハウス>(2003)(写真=平井広行)


 こちらが最初に実現したのですが、鉄骨の柱が十文字になって、H型鋼の梁とうまく結ばれて非常にきれいなディティールができています。納まり的にも、十文字の部分にガラスシャッターのレールを入れることができるという利点もあります。
 シンプルな構造を見せると同時に、サッシュなどをきれいに収めなければいけませんが、その納まりがうまくいくことが約束された構造と言えると思います。単に構造的な冒険主義ではなく、コンセプトの中にディティールの要素がちゃんと埋め込まれているのです。コンセプトを実現する方法も最初にイメージする、これが大事なことだと思います。
 
----- モダニズムそのものが今の時代によみがえって、今のテクノロジーも加わって、純化されている気がします。
 
平賀:モダニズムはもう終わりで建築はポストモダンだ、と言っていた時代もありましたが、根本的には、モダニズムというのは素晴らしいコンセプトであって、それを現代の技術と素材で翻訳し直すと、また新しい空間ができるのではないかと思っています。
 
----- 横行な言い方をすると、みんなポストモダンボケしていた時に、坂さんの建築は“モダニズム純化の爆弾”を投げたのかもしれません。
 
 

前半はここまでです。後半は6月22日に公開予定。坂建築に見られるより具体的な雨仕舞いについて、聞いていきます。

 
 

(2013年2月22日|東京・松原の事務所にて|インタビュアー:真壁智治、編集協力:安部ひろ子)