雨と生きる。雨を活かす。雨の文化創造を考える。

 
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乾 久美子(いぬい・くみこ)
 
:1969年大阪府生まれ。92年東京芸術大学美術学部建築科卒業、96年イエール大学大学院建築学部修了。96~2000年青木淳建築計画事務所勤務。00年乾久美子建築設計事務所設立。00~01年東京芸術大学美術学部建築科助手、11年東京芸術大学美術学部建築科准教授、16年横浜国立大学大学院Y-GSA教授。
 
08年新建築賞(アパートメントI)、10年グッドデザイン金賞、11年JIA新人賞、12年BCS賞(日比谷花壇日比谷公園店)、12年第13回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展「金獅子賞」、15年日本建築学会作品選奨(Kyoai Commons)、17年日本建築学会作品選奨(七ヶ浜中学校)。
 
LINK:http://www.inuiuni.com/


 

 

13:乾 久美子 / Inui Kumiko

 

人々の多様な営みを
包み込む建築をつくる

(2/3)

2018/11/14
インタビュアー:真壁智治、編集:大西正紀(mosaki)
 

釜石市唐丹地区小中学校

 
—「釜石市唐丹地区小中学校」は一転して、切妻屋根の施設です。
 
乾:この建築は木造で、屋根はガルバリウム鋼板で吹きました。樋も一般的な軒樋です。全体は、分棟になっています。敷地内に震災後の仮設校舎が建っていたのをよけながら、急斜面の裏山に建設しました。
 

「釜石市唐丹地区小中学校」外観(写真=阿野太一)


— もともとこの敷地は山を削ってつくられたのでしょうか。
 
乾: 震災で急斜面に建っていた元の校舎が被災しました。また、海岸沿いにあった小学校と児童館は津波被害を受けました。以降、仮設校舎を建てて、あまり損傷のなかった体育館は授業に使い続けつつ、再建をすることが求められたわけですが、そうすると裏山以外には建設可能な場所はありません。
 
  高低差が30メートル近くある急斜面の山に、どう建てるのかが一番のポイントでした。斜面地の建築で問題になるのは、どのように土圧を受けるかです。プロポーザル時点では建物で土圧を受けるのがもっとも合理的だと考えていたのですが、縦割りの予算の制度から考えた場合には、合理性がかならずしもあるわけではないことがわかりました。土木工事で切り盛りしてしまったほうが、予算を引き出しやすいのです。さすが土建国家だなと思いました。建築には厳しい上限が設定されているのですが、どうも土木はそうではない。建築側の人間としてやるせない気持ちになりましたが、でも、悔しいので、それを使ってやろうと(笑)。
 
 しかし、すべてに土木的な造成をかけて、ヒューマンスケールを越えるような擁壁は出したくありません。そこで、高低差 27メートルの急斜面を、ある方向だけは擁壁に、もう一方はずるずると周りの地形にあわせて法面でつなげています。これが、相当、効いていまして、自分でいうのも難ですが、土木工事で施工したとは思えないスケール感になっていると思います。
 
— とは言っても、きちんと図面を描くのが大変そうです。
 
乾:そうなんです。一緒に JVを組んだ東京建設コンサルタントという土木コンサルに図面を何度も描いてもらっています。彼らとして、なんでこんなに何度もやらなくてはならないの、という気持ちはあったと思いますが、頑張っていただきました。彼らのおかげで このヒューマンスケールを持った急斜面の造成が実現しました。そして、その上にシンプルな建築を建てて、建築と擁壁の間に豊かな空間がつくっているというのが、このプロジェクトの最大のポイントです。
 

建築と擁壁の間に豊かな空間をつくる。(提供=乾久美子建築設計事務所)


— なるほど!この残余空間が面白い!造成と残余の扱いにオリジナリティがあるわけです。建物そのものは、単純とおっしゃいますが、敷地全体のソリューションとしては、緻密な設計とトライアルがある。
 
乾:そうですね。このような形で、建築と土木をセットで設計するというのは、新しいと思います。ある種、土木の次元で、建築のデザインをしたように思います。
 
— 通常は、利害が反するものですから。しかし、被災地復興のケースでは、この建築と土木との複眼的計画論は、とても有効性を発揮しうるようですね。これは新しい視点です。
 
乾:土木コンサルは以前からお付き合いのある方々でした。隣の大槌町の復興に関わっている際に、東大の景観研の 中井祐先生を通して出会ったのですが、とても人間味溢れる人格がいいなと感じ、唐丹に関わっていただくことをお願いしました。
 

「釜石市唐丹地区小中学校」内観(写真=阿野太一)


— 雨の課題とその処理は、どのようになっていますか。
 
乾:分棟のひとつひとつの建物は先ほどご説明した通りですが、この建築は各棟が外廊下でつながっていることが特徴です。 渡り廊下で悩ましいのは、雨が垂直に降らないということです。 ほとんどが斜めの雨、ひどいときは横なぐりの雨になります。それを外廊下でどう防ぐかということがいろいろと議論になりました。結果、廊下の際に、ポリカーボネートを張って対応しています。
 
 自然にあこがれるのは都会の人です。釜石のように自然の中で暮らす方々にとって、自然はどちらかというとやっかいなものと捉えているようなところがあります。だから、雨に対する心配はとても大きいものでした。
 
— 自然については、都会に住んでる人の方が受け入れる良い意味でのんきさがあります。しかし、これはユニークなディテールですね。それに建物の外壁が、淡い赤や青や黄の色を使われているのは、何か意図があるのですか。
 
乾:外壁は何色かの色をつかっています。それぞれの棟に色を割り当てるのではなく、外のニワを囲うように色を割り当てています。
 

「釜石市唐丹地区小中学校」外観(写真=阿野太一)


 壁の色の決め方ですが、そこにあった街の雰囲気をどう残せるかを考えて、まず集落に相応しい色とはどうあるべきか、どのような色がすでにあるのかをリサーチしました。被災前と被災後の街を見比べてみると、意外と昔、被災前のほうがカラフルなんです。比較してみて被災後に色が失われ、集落全体がなんとなく地味で暗い雰囲気になったことはもったいないと思いました。あと、日本の東北の風景をつくってきたカラーガルバニウム合板の世界が私は好きでした。だから、そうした工業製品もまじった色も合わせて、あかるい色の世界を取り戻せれば良いかと思ったのです。 
 
— 僕は大学院のころ、女川から宮古まで、三日かけて歩いたことがありました。何か集落のようなものに出会いたいと思っていたのですが、行けども行けども、まとまった集落に出会えないんです。目の前に広がるのは、波形スレートと鉄板の外壁を持つ家ばかり。で、たまにマグロ御殿が出てきます。このジェネリックな光景をどう捉えたらいいのか、悩んだことを思い出しました。集落は、内陸にしかないんですよね。つまり、そういう乾さんが取り組んでこられた「小さな風景」的な視点からの学びも関係しているわですね。
 
乾:そうかもしれません。「小さな風景」のリサーチをたくさんやってきて、良いことが2つありました。ひとつはちょっとした風景からも、いろんな情報をつかめるようになるということ。もうひとつは、そこに参加するスタッフや学生たちが、どんどんのめり込んでいくことですね。
 

「釜石市唐丹地区小中学校」内観(写真=阿野太一)


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