連載|にわか雨の如く、建築に異議を申し立てる時評
その不意さ加減の面白さ、深刻さを建築の時評に。建築のここが変だ、ここがオカシイ、建築に声を上げる「驟雨異論」。 にわか雨が上がるのか、豪雨になるのか!?
建築家、一級建築士。1950年埼玉県浦和市生まれ。1973年横浜国立大学工学部卒業。1973年沖縄国際海洋博覧会 船クラスター施設展示設計企業体。1974年計画設計工房 (谷口吉生、高宮真介)に所属。1980年建築計画設立(元倉真琴と共同) 。1986年飯田善彦建築工房設立。2022年株式会社 アーキシップスタジオ。
主な受賞に、日本建築学会作品賞(1998)「川上村林業センター」、BCS賞(2007)「名古屋大学野依センター」、神奈川建築コンクール優秀賞(2012)「minaGARDEN」、2016 第16回JIA環境建築賞最優秀賞(2016)「沖縄県新看護研修センター」、第4回京都建築賞優秀賞(2016)、BCS賞(2016)「龍谷大学深草キャンパス和顔館」ほか
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Archiship Studio
YOSHIHIKO IIDA #1 2026.4.20
制約から立ち上がる建築の美学 1
雨のみちをかくす
せっかくなので、1年間「雨のみちデザイン」について、これまでいろいろ試みてきたことを書こうと思う。
そもそも建築は内容や規模に関わらず、雨、風、日射等々変数としての自然を相手にせざるをえない。近年快適さを数値化し、それを得るための性能を測る指標をランク別にして達成が求められるが、必ずしもそれがいいとは思わない。建築が建つ場所の気候や周辺環境に対してどのように応答すれば快適な状況が作れるのか、それこそが建築をデザインする目的の一つであり、そこに投入される、制度、コスト、技術等々の制約を超えて知恵を絞った工夫が建築を顕在化させる。例えば、世界中に散らばる気候や素材をとことん利用した地域特性が生み出す、さまざまな集落のプロトタイプなどはその事例であろう。
屋根に受けた雨水をどのように地面に逃すか? 雨の多い沖縄や雪深い北海道や本州の一部を除き大半の地域は、横樋やドレインで受けて竪樋を通して地面に誘導する。特に雨水を直接地面に浸透させず集水して河川に誘導する都市部において雨を集めることは必須である。
この、「雨のみち」に関してどうデザインするか、について、なぜか自分で設計活動をはじめた当初からとても関心があった。特に集めた雨水を地面に誘導する当たり前のように現れる横、竪樋が気になり、どうすればさりげなく処理できるか。素材、形状、ディテールなど時々の条件の中で都度考える。これが難題で立面図の中で開口部同様の存在感がある。
それを意識的に無くそうとした最初の事例は、建築の仕組みに意図的に竪樋を組み込んだ 「花と緑の文化館」だった。
「花と緑の文化館」外観(写真提供=Arhchiship Studio)
URが施主で千葉ニュータウンの北総花の丘公園に建っている。1997年から計画が始まり、2000年3月に竣工した。千葉ニュータウン開発の一環として、北総地域の植物を対象とした展示と、園芸に関するさまざまなサポートを主目的とするが、他領域の市民活動も誘引する地域コミュニティの中心と位置づけられた。竣工後は、千葉県に移管されている。
円形のフロントヤードとクロワッサン状のマウンドによる巨大なランドスケープの中に、アーバンフラワープラザと名付けた常温温室を中心に、ギャラリー、講習棟、展望棟、管理棟が放射状に配されている。そのアーバンフラワープラザには季節に応じた花の展示や花にまつわるイベントが予定され、熱帯温室同様日射や加湿が求められた。結果として、高さ11メートル上空にガラスの屋根を水平に置き、それを8メートルグリッドの柱とガラス下に張り巡らせた2メートルせいの立体トラスで支えることとし、屋根は室内に加え同じ面積を持つ屋外にまで張り出した。
「花と緑の文化館」外観(写真提供=Arhchiship Studio)
「花と緑の文化館」内観(写真提供=Arhchiship Studio)
全体でおよそ1,150平米。この水平のガラス面の雨水をどう処理するか? 考えたのは、直径350ミリの鋳鉄製Gコラムの上部にドレインを仕込み、内部にSUS製で直径112ミリの竪樋を通し、地下ピットに集めることだった。構造的に柱上部の方杖だけでは制御が足りず、屋根上に吊り構造が必要になり、屋根ガラスを載せる建具を含めてドレイン周りのディテールが厄介だったが、掃除方法や組み立て手順含め、実に合理的に解決している。ひとつのドレインが64平米の屋根面に落ちて雨水を賄う計算である。トラス下部には、80ミリ格子の透明ファイバーグレーチングを貼り、トラス内部での作業床を兼用している。任意の場所に花を吊り照明を移動できる。
「花と緑の文化館」断面図(提供=Arhchiship Studio)
柱の中に竪樋を仕込むことを発想したことで、一挙に難易度が上がり、構造や設備設計のみならずゼネコンもサブコンも巻き込みながら解決を探った。鋳鉄に穴が開けられるのか? 竪樋であるSUS管の支持、そのジョイントと鋳鉄管の溶接組み立てが一緒にできるか? 鋳鉄管と吊り柱、建具、ガラスの交点にどうドレインを作るのか? 詰まった時のメンテナンスをどうする? ガラスの勾配は? たったひとつの解答とその実現に向かって全員で議論し、アイデアを出し、ヒリヒリする時間を共有し、一つの結論を導き、承認し、施工し、検証していく。
無理が道理に昇華していることが確認できた時は率直にうれしい。誤解を恐れずに言うと、これも建築の醍醐味である。誰もやったことがない、でも実現すれば絶対にいい建築になる。確信しつつもハードルが上がる一方である。その不安、逡巡、それに対する耐性は、20代に谷口吉生さんと仕事をして身についたものかもしれない。
「花と緑の文化館」作業も可能なトラス屋根内部(写真提供=Arhchiship Studio)
同じように柱に竪樋を仕込んだ例が、2004年に計画が始まり2006年に竣工した 「京都龍谷大学深草キャンパス修景計画」である。
「京都龍谷大学深草キャンパス修景計画」外観(写真提供=Arhchiship Studio)
元々陸軍の師団が使っていた土地を戦後米軍が接収し、その後龍谷大学が入手してキャンパスを開校した。当初かまぼこ兵舎をそのまま使用し徐々に校舎を敷地外周部に建て増し、一段落したところで内庭の整備計画を立てた。計画では、あちこちに脈絡なく残っていた雑木や生垣、雨水が溜まるがたがたの舗道など過去の痕跡のために混乱していた外構を整理し、集まってワイワイするところ、作業や学習、インフォメーション、エントランス庇、など活動領域を分類設定した上でいくつかの東屋に集約し、同時に共同溝を整備し全体のバリアフリーも実現した。
「京都龍谷大学深草キャンパス修景計画」外観(写真提供=Arhchiship Studio)
その東屋の屋根にGRCのコンクリートパネルを使い、それぞれの形状、サイズ、特性に合わせた鉄骨柱で受けている。当時ルイヴィトンなどでファサードに使われていたGRCを、本来の、構造、意匠含め自立したPCとして扱いたかった。この仕組みに竪樋を組み込んでいる。例えば、円形広場の外周を囲う東屋は一本柱で支えるが、イベント時の照明のため配線ルートも必要とされたため、一本置きに竪樋と電路が内蔵されている。他の東屋も同様である。横樋は柱を結ぶ梁に組み込んだため、いずれの造形も鉄の線材とGRCのコンクリートだけで構成され、他の要素は排除されている。
「京都龍谷大学深草キャンパス修景計画」回廊断面図(提供=Arhchiship Studio)
おそらくこれらの建築を見ても柱に竪樋が組み込まれていることは誰も気が付かないだろう。それほど全てが自然に見える。目が留まる要素がたったひとつ減るだけで視線が滑らかに動く、というより建築の主題、デザインの意図がよりくっきりする(ように感じる)。
全体のためにあるディテール。その実現にスケッチを重ねながら知恵を絞ることも建築に携わる者のこの上ない喜びなのだ。
|ごあいさつ
2025年度6期「驟雨異論」も樫村芙美、藤村龍至、藤原徹平の三氏によるレビューを示すことができました。有難うございました。毎回私は、レビューアたちの日常性から把握される建築時評を楽しみにしています。それは、建築の現場性や状況性がよく分かるからです。ここで、新しい読み手の方も多いかと思うので、改めて「驟雨異論」レビューの仕組みを解説しておきます。1年に3名のレビューアーが、4回の連載を順繰りに展開して執筆するもので、3名のレビューアたちとのシナジー効果も読み手からは興味深いことになります。レビューには、4回の連載のテーマ性が貴重になり、これも読み手が納得して連載の推移を楽しみにするものでもあります。レビューのテーマ性が批評を持ってこそ、論理の展開が面白くなってゆくものです。「驟雨異論」のレビューのユニークさにも書き手の多彩さが見られ、ベテランから中堅、更に若手などによるレビューのテーマ性にもうかがうことができます。2026年度7期の「驟雨異論」は飯田善彦、平田晃久、中川エリカの三氏が1年間を順繰りにレビューを展開していきます。ご期待ください。
2026/04/10
真壁智治(雨のみちデザイン 企画・監修)
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