建築時評コラム 
 連載|にわか雨の如く、建築に異議を申し立てる時評 

その不意さ加減の面白さ、深刻さを建築の時評に。建築のここが変だ、ここがオカシイ、建築に声を上げる「驟雨異論」。 にわか雨が上がるのか、豪雨になるのか!?


樫村芙実(かしむら・ふみ)

 
建築家。1983年神奈川県生まれ。2005年東京藝術大学建築科卒業、2007年同大学院修了。八島建築設計事務所、Boyd Cody Architects勤務を経て、2011年小林一行とともにTERRAIN architects設立。2019年より東京藝術大学講師、現在、准教授。
 
主な作品に、AU dormitory(アガ・カーン建築賞ファイナリストほか)、Yamasen Japanese Restaurant(Archi-Neering Design AWARD最優秀賞、グッドデザイン金賞他)、かしまだ保育園(神奈川建築コンクール優秀賞ほか)。
 
URL:
TERRAIN architects

FUMI KASHIMURA #3     2025.10.25

ウガンダ建築ワークショップ2025

写真提供 = 筆者
 
 この夏のワークショップ「 Uganda Workshop 2025 “ Field of Feast”」について記しておこうと思う。約 10日間、ウガンダの ウガンダマターズ大学チャンボゴ大学、日本の 東京藝術大学、3つの大学からなる混合の学生チームと共に過ごし、 4つの小さな構造物を制作した。現在それらは敷地の庭師たちに使われている。
 

現在の橋の様子。庭師たちが日常的に使っている。彼らは制作にも関わってくれた。


 10日間の枠組みは、 2014年にはじめてカンパラで行ったワークショップから少しずつ改良してきた。短期間でも制作が可能で、デザインを持ち込まず、敷地の読み解きからデザインをあぶり出す時間が確保できるようにしている。さらに、帰国後も継続して使われるよう、補修の余裕を持たせ整えている。もちろん 1カ月ほど滞在できたら理想的なのだが、それは、アフリカがもう少し身近になる 15年後くらいの夢として、目下 10日間は集中的に行われ、初渡航の学生たちも具合が悪くなる余裕のないまま、帰国の途につくようにしている。前半は敷地近くに滞在し、昼夜敷地で過ごしながら 2日間の観察で製作物の位置と規模を決め、 5日目には自ら企画したイベントで構造物を 祭り 的に使う。 1日休みを挟み、制作物を日常に馴染むよう手直ししたのち、前半で熱を帯びた頭を冷やすべく物理的にも少し距離を置いて、プレゼン準備のため市中心部に移動する。最終日には大学関係者や有識者を招いての発表としている。
 
 行ったことのない場所であってもさまざまな情報が手に入る現代にあって、何の準備もなくとにかく飛び込んでみる、というのは無邪気すぎるように思える。このワークショップでは、敷地観察のための「下絵」を事前に用意することを重視している。建物のスケールや植生の密度など客観的な情報をプロットしながら、未知のアフリカを手元に引き寄せる。だが実際に訪れると、 と記された場所に何もなかったり、 ホテル が崩れかけた納屋だったりする。そうした「現地のリアル」に耐えるための心の準備でもあるかもしれない。
 

学生たちが記述した川沿いの図面。樹木や植生をプロットした図、敷地での記述、プレゼン用の図。庭師たちの動きや視線などを盛り込み、彼らの生活の営みが明らかになっていった。


 今年の敷地は 首都カンパラ東部の Kira市にある川沿いの湿地で、都市化の波に侵食されつつも、心あるオーナーによって守られている約2ヘクタールの緑地であった。緑地保全と都市化の共存は、アフリカ諸都市に共通する課題である。今回の芸大チームは、彫刻、工芸、油絵、建築など多様な分野から構成され、それぞれの視点で、人々の営みや価値観を尊重しながら敷地を理解していった。
 
 朝、人気のない川沿いを分担して観察すると、けもの道やたき火跡、寝床のような場所から、庭師たちの行動が浮かび上がってきた。 20代を中心とした庭師たちは近隣から集まり、日々草刈りを担っている。学生たちは敷地南北をつなぐ「橋」をつくることを決めた。洪水で流された古い橋に代わる実用性に加え、東西に広がる敷地を 意識の上でつなぐ線 にしたいという発想だった。こうして橋とローテーブル(あるいはベンチ)が生まれ、交点となる松の木はイベントで使うヤギを吊るす場にもなった。
 

食事を待ちきれない庭師とホストする学生の様子。


 イベント Feast(フィースト)には庭師やその友人たちが集まり、想像以上の賑わいとなった。学生が丁寧に用意したドリンクは瞬く間になくなり、「戻して! 共有して!」と叫ぶ場面もあった。のちのインタビューでは、庭師たちにとって忘れがたい思い出になったようだ。橋やローテーブルの使い方が印象に残ったようで、それが狙いであったので、ひとまず成功と言えよう。
 

日中のフィーストとは別に、夕暮れにももう一度小さなフィーストを行った。蝋燭を灯し、落ち着いた雰囲気。宴会は守られ、安心できる席であった。


 最終プレゼンは例年通り、 Yamasen Japanese Restaurantの共有部を会場に行った。学生たちは建物の動線を読み解き、展示を巡るツアーのようにゲストと対話する形式を提案した。現地学生との一体感もあり、当日は 60名を超える観客が集まり、庭にあふれるほどの盛況だった。告知はわずか数日前だったが、 10年前の参加者や大学関係者が集い、継続することのインパクトを実感することとなった。
 
 建築は、長い時間を要する営みである一方、短期間で実験的に制作し記録できることはこのワークショップの大きな意義である。人口増加と開発が加速するなか、時間やコスト効率が優先されがちな現地に対し、柔軟で持続的な代案を探るささやかな試みが、少しずつ意味を持ち始めている。
 

プレゼンテーション会場に展示された、庭師の写真。彼らの年齢や出身地、フィーストの感想などが IDカードに記された。


Uganda Workshop 2025 “ Field of Feast”
(東京藝術大学Global Arts Co-curricular Short Unit Project 2025)
参加大学:ウガンダマターズ大学、チャンボゴ大学、東京藝術大学
Link : https://terrain-arch.com/works/1203/

|ごあいさつ

 
2024年度 5期「驟雨異論」も無事予定通り配信することが出来ました。レビューする力を示した貝島桃代、難波和彦、山道拓人の各三氏には熱く御礼申し上げます。昨年は、ポストモダニズムを切り拓いてきた建築のイデオローグが相次いで亡くなりました。一つの時代の終焉を象徴的に示すものではありますが、時代は益々「困難な全体(Difficult Whole)」(R・ベンチュリー)の度を増し、建築の危機を色濃く映し出しています。この事態に立ち向かうにはむしろ硬直したイデオロギーにとらわれることのない自在な発想と、そこに生まれる共感こそが強く求められるのではないでしょうか。レビューの場を通して少しでも声を上げていきましょう。2025年度6期「驟雨異論」は樫村芙実藤村龍至藤原徹平の各三氏が一年間を順繰りにレビューを展開してゆきます。ご期待ください。
 

2025/04/10

真壁智治(雨のみちデザイン 企画・監修)
 

|Archives

 

驟雨異論|アーカイブはコチラ