建築時評コラム 
 新連載|にわか雨の如く、建築に異議を申し立てる時評 

その不意さ加減の面白さ、深刻さを建築の時評に。建築のここが変だ、ここがオカシイ、建築に声を上げる「驟雨異論」。 にわか雨が上がるのか、豪雨になるのか!?


 
連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)

 
1987年生まれ。建築家。特定非営利活動法人モクチン企画代表理事/株式会社@カマタ共同代表/明治大学理工学部建築学科専任講師。2012年慶應義塾大学大学院修了、2015年慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学。学生時代にモクチン企画を起業し、現在に至る。主な著書に「モクチンメソッドー都市を変える木賃アパート改修戦略(共著/学芸出版社)ほか。モクチンレシピで、2015年グッドデザイン賞受賞。
 
URL
https://mokuchin-recipe.jp/
https://www.atkamata.jp/

YUTARO MURAJI #4     2022.3.18

レスポンスするための柔軟体操

 
 2021年 11月に建築・都市分野の言葉と文化を支えてきた LIXIL出版が、活動の終わりを迎えた。 2006年に大学に入学した私の世代にとっては 「現代建築家コンセプト・シリーズ」が特に馴染み深い。読者としても書き手としても育ててもらった 「10+1 website」も最終号が出てちょうど2年が経とうとしている。 1980年代前半に活動を開始した LIXIL出版( 2012年まで INAX出版)の活動終了は、あるひとつの時代の終わりを象徴している。

 
 インターネットが普及したことによって、個人が書いて発信することは随分と容易になった。既存のメディアに頼ることなく、アイディアや考えたことを自由に発信できる環境は十分に整っている。ブラウザやSNSをひらけば、新しいコンテンツが次から次へと目まぐるしく現れ、新しい情報に触れたり出会ったりする機会に困ることはない。ただ、そんな状況のなか最近強く感じるのは、「コンテンツの総量が増えれば言説空間が充実する」という比例関係は成立しないということである。書いた原稿はネットの海のなかに消えていき、議論が積み重なっていく実感を私自身持てないでいる。コロナ禍で気軽に食事をしながら建築談義をするということも随分減ってしまい、ここ数年そうした状況をより一層強く感じるようになった。
 
 20221月から日本建築学会のウェブマガジン「建築討論」市川紘司編集委員長のもと新体制となり、第5期がスタートした。編集方針として「建築系コンテンツのレビューの空間」であることを明確に打ち出されている点に強い興味を持った。以下、第5期開始にあたって掲載された市川氏による「制作方針」から文章を抜粋する。
 
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建築系メディアの衰微がさけばれて久しいが、他方で、建築や都市にかかわるコンテンツはかわらず多く生み出されている。建築書は隣接領域をふくめればなお充実しているし、建築展はこの10〜20年でむしろ増えていると言えそうだ。海外に目を向ければ、21世紀に入ってからの時代の変化のなかで、さまざまな議論や実践が生まれている(翻訳書を出す体力が落ちたことでキャッチアップできていない)。こうしたすでに世に出回っているコンテンツにリアクションし、記録とレビューをすることをひとまずは優先してみたい、というのが、今期の『建築討論』の趣旨である。そのためにレビュー的なシリーズ記事を増やした。

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 この文章を読んだとき、既にあるコンテンツに「リアクションする」という言葉/姿勢に強く共感した。責任 (responsibility)とは、なにかに応答する( response)能力のことであるならば、第5期の「建築討論」を通して市川さんは、さまざまなコンテンツに応答するための場を我々に用意し、そのことで何らかの責任を果たそうとしているのだと感じた。
 
 市川さんの文章に共感したのは、この「驟雨異論」の執筆を引き受けた理由ととても近かったからでもある。今まで、自分の実践や考えを文章にするということを心がけてきたが、誰かの成果や問題提起に十分に反応することができてきたのかという、反省があった。だから時評というこの企画の性質を借りて、誰かの最近のアクションに対してちゃんと反応するための練習を全4回を通してやってみようと考えた。誰かのアクションにレスポンスするための柔軟体操である。最終回であるこの文章を含め、当初の目的はそれなりに果たせたのではないかと思う。
 
 昨年は誰かの投げかけに反応するということと合わせて、その逆のことにもトライしてみた。応答してもらうのを待つのではなく、応答してほしいと思った時に、そのための場を自分で用意するということ。いま、 『社会変革としての建築(仮)』という本を書いているのだが、編集者の 富井雄太郎さんと一緒に通称「自主ゼミ」というものを新刊執筆と並行してはじめた。内容は、執筆中の原稿を毎回お呼びするゲストとゼミ参加者と共有し原稿に対してフィードバックをもらうというもの。ゲストとの対話がそのまま書籍のコンテンツになるわけではなく、あくまでゲストからフィードバックをもらうことで原稿をブラッシュアップしていくことが目的である。驚くことにゼミ参加者を募集したところ 100名近く集まった。今まで6回開催し、建築領域では 能作文徳さん、 秋吉浩気さん、ツバメアーキテクツの 山道拓人さん、 千葉元生さん、 西川日満里さん、 乾久美子さん、そしてアーティストの 卯城竜太ChimPom)さん、社会学者の 西田亮介さんに参加頂いた。
 

 
 ゼミ自体は公開ではなくクローズドなのだが、ゲストとの議論の様子や内容を私より若い世代の実践者や研究者にレポートとして執筆してもらい議論をひらくことにした。執筆をお願いしたのは、 『HUMARIZINE』という ZINEを制作している 寺内玲さん・ 松岡大雅さん、 Many Conference(通称メニカン)を運営している 谷繁玲央さん、 福留愛さん、 橋本吉史さん、 GROUPで設計活動をしつつ ノーツ』という ZINEを制作した 大村高広さん、そして東工大の博士課程に在籍し千葉県鴨川市でプロジェクトを実践している 平尾しえなさん7名である。そもそもこの本を書くにあたって、自分より若い世代に読んでほしいと考えた。だから、レポートを執筆してくれた人たちはまさしく私が「読んでほしい!」と思う想定読者ど真ん中の人たちである。直接反応を受け取り、テキストというかたちで批評や感想を聞けたことはとてもよかった。どのレポートも新しい発見と気づきを与えてくれる内容となっており、何より書籍と独立して単体で成立する強度であるテキストが集まった。ウェブで公開されているので、ぜひ新しい世代の感性に触れてほしい。ゼミでは、他の参加者からもおすすめの書籍を紹介してもらったり、フィードバックをもらったりすることができ刺激的であった。 SNSで記事を拡散することとは違うコミュニケーションのあり方(レスポンスの受け方)を実感できたことは個人的に大きな収穫であった。
 
 
 この「驟雨異論」というコーナーの執筆機会を与えてくださった 真壁智治さんのように、今まで、私の実践、研究、文章に対してさまざまなかたちで応答・反応してくださった方々の顔が浮かぶ。 LIXIL出版のように大企業が支えてきた言説空間がなくなっていく状況を憂うことは簡単だが、まずは私自身がしっかり周りの状況に対してレスポンスしていくことで、他の誰かにバトンを渡していくことが大事だと感じている。そのためには筋トレと体操を継続していく必要がある。一緒にレスポンスするための柔軟体操しませんか?
 
 
参考リンク
 
LIXIL出版活動終了のお知らせ: https://livingculture.lixil.com/
自主ゼミ: https://note.com/_millegraph/m/mfceea7cc21e6
HUMARIZINE: https://humarizine.com/
メニカン: https://note.com/confmany/
ノーツ : https://notesedition.tokyo/

|ごあいさつ

 2021年度の建築・都市時評「驟雨異論」を予定通りに配信することができました。太田佳代子、布野修司、連勇太郎の執筆者各3氏に改めて御礼申し上げます。それぞれの関わる分野、立ち位置、キャリア、そして世代の違いから見えてくる問題意識の多彩さと語り口に興味を抱かされた一年間でした。本当にご苦労様でした。
 
 2022年度では新たな執筆者の陣容として、千葉学、黒石いずみ、南後由和の3氏が登場します。3氏のシナジーがどのような批評空間を生み出すのか大変楽しみなところです。
 
 これまで建築・都市時評を通して、広く「問題」(批評)の所在を共有することを狙いにウェブマガジン「雨のみちデザイン」に新たなコンテンツとして「驟雨異論」がスタートしたのが2020年。
 
 次のステップとして、そこから多くの思考や批評が反応・応答としてつながることを望みたい。そのためにも、建築系コンテンツのレビュー空間に加わるべく、2022年度より「驟雨異論」をnoteからも配信していきます。noteでの「驟雨異論」ではレビューアー別に時評が構成され、アーカイブ性を保つことで、レビューアーの持ち味に出会えるものとしていきます。
 

2022/03/18

真壁智治(雨のみちデザイン 企画・監修)
 

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