このコーナーでは、建築家たちによる「雨のみち」のディテールをその図面とともに公開していきます。どのようなポイントをに配慮しながら、建築家たちは雨と建築の間で考え続けてきたか。その思考とアイデアを図面とコメントによってアーカイブ化していきます。第2回目は、建築家の田中敏溥さんの登場です。(※図面をクリックすると大きく表示されます。テキストと図面を行き来しながらお楽しみください。)
#02-1 益子の家
鼻隠し板を水平にして軒をシャープに
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・竣工年/敷地:1994年/栃木県芳賀群益子町
・設計者:田中敏溥
・構造:木造2階建
・雨仕舞種別:樋なし
設計者は「自然の力に謙虚にならなければならない」と思っています。雨についても同じことだと考えています。天からの雨を受け留める屋根はできる限り単純につくり、廻り道をせずに地に帰すよう努めるべきだと考えて設計しています。だから、「雨のみちデザイン」全体の内容からすると、困った設計者かもしれませんが、できれば雨を導く樋は無いほうがよいと考えているのです。
最初の事例は、1994年に竣工した陶芸家の家です。この家は、家の中から工房まで全ての床が自然の土のままの土間になっていて、全ての来客者を迎えます。この家では、軒先をシャープにすることにこだわりました。断面図を見るとわかるように、軒先の雨の切りが良いという点とシャープな軒先のラインを見せたいという理由から、鼻隠し板を水平にしています。
#02-2 四季の森文化館(福井県永平寺町立図書館)
屋根の形は単純に.樋桶は付けない.
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・竣工年/敷地:1996年/福井県吉田郡平寺町
・設計者:田中敏溥
・構造:鉄筋コンクリート
・雨仕舞種別:樋なし
2つ目は、福井県に建つ図書館です。この施設は、現在の名称はそのままなのですが、残念ながら町村合併により今は、図書館機能はなくなってしまい、町の文化財資料館として使用されている施設です。
本当に雪の多い地域に建っているんです。だから、計画当初から単純な形の屋根として、軒樋をつけないことを考えました。冬は屋根面にヒーター(融雪装置)をつけて雪を溶かし、雨にして落としています。
また、雨水が落ちる部分は、前面に広がる白砂の庭と一体感をつくりだすために、幅600mmのU字溝に幅600mmのグレーチングを設置し、その上に大きめの砕石を載せ敷き詰めることで、グレーチングを見えなくしています。雨水は地下ピットに留めて、トイレの中水として利用するようにしました。
#02-3 鹿児島の家(霧島の家)
軒樋をつける?つけない?そのポイントは...
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・竣工年/敷地:2012年/鹿児島県
・設計者:田中敏溥
・雨仕舞種別:軒樋
3つ目は、鹿児島県に建つ住宅です。屋根を外断熱にする場合、軒先までその断面を延ばすと、軒先が大きくなってしまいます。そこで断熱が必要でない場合は、軒部分(壁から軒先まで)はそのまま屋根材を張り、薄く見えるように心がけています。断熱材で厚くなった屋根の端部に軒樋を通し、タテ樋で雨を落とすのです。因みに、通常木造の家では雨漏りの心配があるので、内樋を採用することはありません。それに内樋は、お金がかかりますからね。
1階(平屋)の屋根はできるだけ、軒樋をつけないように努めますが、人が軒下を通る場合や、軒先下に物やテラス等がある場合は軒樋をつけます。今回は、厚みの薄いステンレスのフォーミングアングル(規格品)を軒樋として利用しました。ケラバから長くのばしたのは、玄関へのアプローチで人からクサリを遠ざけるため、雨のハネを避けるためなのです。ステンレスの40棒を通して吊り下げているだけの極めて原始的な方法です。(別図参考)これだと葉が詰まっても、引き上げるだけでOKなのです。
左:雨落とし(クサリ)の位置は、雨のハネを考慮して考える
右:野地板に開口をつくり、軒樋の雨をそこから落としている
#02-4 杉野服飾大学附属図書館
軒樋をつける?つけない?そのポイントは...
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・竣工年/敷地:2002年/東京都
・設計者:田中敏溥
・雨仕舞種別:縦樋
略歴
田中敏溥(たなか・としひろ)
1944年、新潟県村上市生まれ。1969年、東京藝術大学建築科卒業。1971年、東京芸術大学大学院修了。茂木計一郎氏のもとで環境計画及び建築設計活動に従事。1977年、田中敏溥建築設計事務所設立。