松尾絵美子
(まつお・えみこ)

 
岐阜県出身。2003年愛知学院大学国際文化学科卒。名古屋の地域工務店で10年間ブランディング・広報を担当し、企業と一般消費者を結ぶ情報整備と発信を行う。その後、パッシブソーラーシステムや全館冷暖房システムなどを供給するメーカーで営業企画・広報を担当し、メーカーとプロユーザーを結ぶ情報整備と発信を行う。同時に一般社団法人パッシブデザイン協議会の事務局を務め、現在はそれを事業の一部として引き継いだ一般社団法人Forward to 1985 energy lifeの事務局を務める。一貫して環境と共生する地域建築の普及を主とし、現在はそれらを理念として活動する地域工務店やメーカーの広報サポートを行う。

 タニタ製品レポート 
 

# 02

ガルバリウム雨といへのこだわり

2020.12.10

 

タニタハウジングウェア(以下タニタ)といえば「ガルバリウム」を連想する人は少なくないと思うが、ガルバリウムの雨とい、外装材、屋根材などは、間違いなくタニタの主力商品だ。今回は、そのガルバリウム製品に対するタニタのこだわりにフォーカスする。
 


ガルバリウム雨といの歴史

 
 銅板専門メーカーであったタニタが、雨といの分野に進出したのは、今から50年前の1970年のこと。加工品の製造へ転換し、銅製の雨といをラインナップのひとつとして製造しはじめた。そして、その35年後の2005年に、ガルバリウム製の雨とい 「レクガルバ」が発売した。
 
 ガルバリウムが日本に流通しはじめたのは1980年頃で、建築業界で広く使われるようになったのは2000年頃のこと。タニタはガルバリムの屋根材は取り扱っていたが、あるとき取引先から 「柔らかいガルバリウム」を紹介された。
 
 屋根材よりも成形が複雑な雨といは、固い素材では成形に追従できず、メッキ層のクラックに繋がるため、屋根材と同素材のガルバリウムではつくることができなかった。雨といをつくるガルバリウムの素材には芯材である鋼板、塗装すべてに柔らかさが求められるのだ。だからこそ、この「柔らかいガルバリウム」を紹介されたことが、ガルバリウム製の雨といをつくる大きなきっかけになったという。
 

ガルバリウムの外装材(屋根・換気棟・外壁材)と雨といの素材構成の違い


 タニタが扱うガルバリウム素材は、屋根や外壁などの外装材に使われるものと、雨といに使われるものとでは、芯材・メッキ・塗装の構成が違う。外装材に使われるガルバリウムは、表面は酸性雨や紫外線等に耐えられる耐候性に優れたメッキ・塗装の構成となっており、内側は結露等の水滴に耐えられる程度の塗装で仕上げられている。一方、雨といに使われるガルバリウムは、両面共に雨風・紫外線にさらされるため、両面共が表面という捉え方だ。両面に同じ塗装が必要となり、更には雨といの加工に耐えるための柔らかい芯材と柔らかいメッキ層という構成になるため、その分イニシャルコストがあがる。
 
 とはいえ、銅やステンレスの雨といに比べると安価で、かつ耐久性が高いことが、ガルバリウム雨といがタニタの代表的な商品群になるまで好評を得ている理由のひとつだろう。
 
 今年で発売から15年を経たタニタのガルバリウム雨といは、見た目こそほとんど変わっていないが、製品ごとに数々の改良が加えられている。そのひとつが、塗装のタイミングだそうだ。一部、発売当初は成形後に塗装をしていた部品があるのだが、微妙に色が違っていた。
 
 現在は、プレコート材(塗装されている鋼板材)を使って成形出来るように金型を改造したり、成形の際にプレコート材の塗膜が傷付かないように部品の構造を改良し、殆ど全ての部品をプレコート材で成形できるようになったという。
 
 その結果、後塗り部品とプレコート材部品の色調差が生じず統一された色調となり、経年変化も一様になる。なお、それらの商品のほとんどは接続部品だという。そこにも、雨とい本体との一体感にこだわるタニタらしさが垣間見える。また、この塗装は前回ご紹介した「ちぢみ塗装」で、風合いのあるテクスチャーと、高い耐久性・耐候性が、タニタのガルバリウム雨といの大きな特徴となっている。
 

タニタのガルバリウム雨といラインナップ

 
 現在、タニタのガルバリウム雨といは4つのシリーズに分かれている。ここで改めて紹介しよう。
 

「スタンダード」半円形状(サイズ:半丸105・半丸120)

タニタのガルバリウム雨といの販路拡大に大きな役割を果たした商品。建築家 伊礼智 氏との協働によりデザイン開発されたもので、建物に違和感なく溶け込み、軒先を品よく飾る佇まいが好評。発売から14年経っても主力商品として愛されている。
 

「HACO」箱形状(サイズ:H6号・GH12号・GH15号)

スタンダード半丸よりも排水能力が高いHACOは、2009年より発売されている。モール等の凹凸がなく、シンプルな箱型デザイン。それゆえ、横からの変形に耐えられる強度が必要であったり、梱包に工夫が必要だったりするが、見た目の美しさを大切にするために、それらの懸念事項をクリアするべく開発努力を惜しまないところがタニタらしい。
 

「レクガルバ」前高形状(R6号)

タニタのガルバリウム雨といでは定番商品。スタンダードな軒といの形状で、建物の和洋を問わず広く受け入れられている。排水能力はHACOとほぼ同じ程度を有する。
 

「ユキノキ・すとっ葉゜-」雪・落ち葉除け機能製品(U6号)

その名の通り、雪や葉が軒といに入り難いよう蓋(雨水ガイド板)がセットされているタイプ。植え込みが多い環境や、雨といを付けられない積雪地域において効力を発揮する。
 


ガルバリウムクサリトイ「ensui」へのこだわり

 
 タニタのガルバリウムラインナップの人気商品に 「ensui」がある。シンプルな円錐が連なるガルバリウムの鎖といだ。この製品は、 「板橋製品技術大賞2020優秀賞」を受賞した(主催:公益財団法人板橋区産業振興公社 )。
 

クサリトイ「eusui」


「大野建設モデルハウス」(設計:伊藤裕子設計室/島田義信建築設計事務所、施工:大野建設、写真:iephoto)の玄関先に設えらえたensui


 雨の日は、雨水が柔らかな音を立てながら吸い込まれるように地面に流れ落ちていき、雨の降らないときも建物のファサードやお庭に彩りを添える佇まい。このensuiの接地先の納まりとしては玉砂利や水甕に落としてもよいのだが、ensui用の 「オモリ」の用意もある。「オモリ」は、ensui発売後に「オモリ(enムスビ)」というユーザーからの声で開発されたものだ。
 

「オモリ」の底辺には、3つの「脚」がついている。


 ensuiを固定するためであればペグやヒートンでも良いのだが、タニタの開発チームは、「ensuiに合う、タニタらしい錘(おもり)をつくりたい」と、ensuiの角度に合わせて ensui本体との接合部の図面をひき、その形を製造するための金型まで作ったというから驚きだ。また、底辺にある3つの凸部が底面に水が溜まり難くなるよう工夫している。当然、ペグやヒートンよりも単価は上がるが、タニタは「タニタがつくる価値」を優先した。結果的に、オプションである「オモリ」は、ensuiを採用するクライアントの約8割がオーダーするという。
 

支持金具に見るタニタの現場主義

 
 タニタのこだわりは、次のエピソードからも窺い知れる。
 
 たてといを壁面に固定する際に、多くは支持金具(業界の通称用語として 『デンデン』と呼ばれている。でんでん太鼓の形から来ているそうだ)を使う。タニタのガルバリウムたてとい用にも、同素材ガルバリウムを使用した 「スリムデンデン」が用意されており、素材による色の違いや変色を避ける工夫がなされている。また、たてといをさらにすっきりと見せたいという要望に応えて、バンドレス金具の品揃えもある。
 

写真左:ガルバリウムたてとい支持金具「スリムデンデン」 写真右:バンドレス金具

 
 バンドレス金具は、施工が少し難しい。バッファーが少なく融通が利きづらいため、仮止めをして印をつけてから本止めをする必要があり、一度穴をあけたら調整ができないなど、その施工には高いスキルが求められる。
 
 そもそもガルバリウム製品の多くは、現場での加工や調整が必要となる。樹脂の雨といはサイディング業者が取り付けることも多いが、ガルバリウムの雨といは板金職人が施工することが多い。ガルバリウムの屋根や外装も、基本的には板金職人が腕を奮う。時折、納まりが複雑で板金職人が泣きを入れることもあるそうだが、美しく仕上がった現場がTVや雑誌で取り上げられ、板金職人が誇らしげに話をしている様子を耳にしたり、職人自らがSNSに紹介しているのを目にすることもあるそうだ。
 
 施工に必要な情報やサポートをする前提ではあるが、簡単に取り付けられるものではなく知識と技術を持った職人の腕を生かしたい、建築板金業をさらにカッコいい仕事に昇華させたい、という想いがタニタにはある。その想いが現れているひとつの商品は、少々施工にコツが必要だが美しく納まる「バンドレス金具」なのだ。
 
 今回、このような小話も含めて、お話いただいたのは、タニタ三人衆(下写真)。皆さんは、ことあるごとに現場に足を運び、クライアントや職人、使い手から話を聞くそうだ。そこで得た声をヒントに、さらなる商品の改良や開発に取り掛かる。タニタのチャレンジは止まることはない。
 

左から、飯島さん(商品開発課長)、谷田さん(代表取締役社長)、大町さん(マーケテイング部長)