雨と生きる。雨を活かす。雨の文化創造を考える。

 
presented by  株式会社タニタハウジングウェア

 
仲俊治
 
(なか・としはる):建築家/仲建築設計スタジオ共同代表。1976年京都府生まれ。1999年東京大学工学部建築学科卒業、2001年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。山本理顕設計工場勤務を経て、2009年仲建築設計スタジオ設立。2009-11年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手。2016年日本建築学会新人賞受賞。2018年より法政大学江戸東京センター客員研究員。主な著書に『地域社会圏主義』(共著、LIXIL出版)、『脱住宅』(共著、平凡社)、『2つの循環』(単著、LIXIL出版)など。
 
宇野悠里
 
(うの・ゆうり):建築家/仲建築設計スタジオ共同代表。1976年東京都生まれ。1999年東京大学工学部建築学科卒業、2001年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。日本設計勤務を経て、2013年より仲建築設計スタジオ共同代表。仲俊治との主な共同受賞に、第16回JIA環境建築賞優秀賞、第31回吉岡賞、グッドデザイン賞2014金賞、第23回千葉県建築文化賞、第1回小嶋一浩賞など。https://www.nakastudio.com/
 
LINK:https://www.nakastudio.com/

取材日:2019年2月14日

インタビュアー:真壁智治、編集:平塚桂、大西正紀、写真:大西正紀
2021/9/8   

ソーシャルとエコロジーの両輪から、建築と向き合う

 
 

ヴェネチアとヴィトラで実感した、建築の課題を突破する手応え

 
— 2016年の第15回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展での日本館の展示「en [縁]:アート・オブ・ネクサス」に参加されました。国際的な展示に参加されていかがでしたか?
 
仲:展示の準備のためにヴェネチアには2週間滞在しました。時間にゆとりがあったので、他のパビリオンの準備状況などを見て回っていたのですが、他国のキュレーターや出展者の方と話すなかで、社会的な意識を持つ建築家が多いという共通点を感じました。ディレクターの アレハンドロ・アラヴェナが掲げた共通テーマは 「Reporting from the Front」でした。テーマは開幕直前に出てくるものなので例年はそこまでテーマに寄せていない展示も多いようなのですが、 2016年の場合はたまたまなのか、テーマに添った社会的な展示であふれました。各国に貧困、孤独、自然破壊などいろいろな人為的な課題があり、それに対して建築の形で回答し、社会的な課題に貢献できるという文脈で多くの展示が構成されていました。
 
 ただそれは人間中心とも言えるのではないかと、少し危うく感じました。もちろん建築は人のためにあるものなので、悪いことではないのですが、地球にこのまま人間が暮らしていけるのかと人間の存在そのものが問われている状況ともいえる中で、たとえば気候危機のような全世界に共通するテーマを扱った展示はほとんどなく、人間中心すぎると感じたのです。
 
 僕は建築をつくることで都市をつくるという思考を 大野秀敏先生、修行をしていた 山本理顕さんから学んだということもあり、建築で人の活動を支えることは大事だと思っていますが、これからはその先の、地球規模で人間と自然の向き合い方まで変えていくような建築をつくれなかなと思いました。
 
— 日本館での展示は、海外からどのように受け止められましたか?
 
仲:じっくり読み込んでくださった方から連絡を頂いたり、いくつかの展覧会にお誘いをいただいたりして、面白いもんだなと思いました。交流していくとヨーロッパの人は見る目が違うと感じることがありました。
 
 ヴェネチア・ビエンナーレに出展した 「食堂付きアパート」2014年)について、ネーミングを山本理顕さんから失敗だと言われたことがあるんです。こちらとしてはあくまで食堂は街とつながる手段で主題は住み方の提案だったのですが、食堂という部分がフィーチャーされることが多いからです。しかしヨーロッパの人は 「働くことを介して周辺と日常的に関わることができるところがいい。住むだけのための空間だと扉を閉めたら終わりになる」と本質を言い当ててくれました。一階がレストランで上階が住宅というのは都市建築の類型だから、ネーミングはむしろ、あまりに普通と思われただけかもしれませんが笑。
 
  ヴィトラ・デザイン・ミュージアムで、展覧会 「Together! The New Architecture of the Collective」2017年)にも呼んでいただきました。 「ファランステール」「ファミリステール」から現代まで、住宅を通じた共同体提案の歴史をさかのぼり、世界から集めた現代的な集合住宅の実践を紹介するという展覧会でした。
 

ヴィトラ・デザイン・ミュージアムで、展覧会「Together! The New Architecture of the Collective」(2017年)の作品集


 特に印象的だったのが、スイスの音楽家の卵のための集合住宅です。バーゼルにあるのですが、 「マイノリティのために公共の土地を使う」という政策があるそうです。マイノリティは字句通り少数の人ということなんだろうと思いますが、音楽家の卵という一芸に秀でた人々が集まって暮らし、地域住民と相互交流ができるような建築として設計されていました。プランや外構も興味深い内容でした。
 
— 住宅から、建築の可能性を突破できるという手応えが得られたのですね。
 
仲:そうですね。しかし反省もあります。アジア諸国の集合住宅の提案は、閉じてしまうとじめじめする、暑苦しいという気候的な背景から開放型になり、そこに人のつながりが付随するという成り立ちだと思っています。この辺りが伝えられたかどうか、と自問するようになりました。和辻哲郎が著作『風土』で世界の風土をモンスーン(アジア)、砂漠(中東)、牧場(ヨーロッパ)の 3つに分類しましたが、展示ではヨーロッパの人たちが、アジアのモンスーン型の気候に由来する建築のあり方に興味があることを実感しました。これからは社会的な関係性と、環境・風土との両輪で捉えていかないといけない、アジアにふさわしい建築や都市のあり方をあらためて考えたいと感じました。
 

ヴィトラ・デザイン・ミュージアムでの展覧会「Together! The New Architecture of the Collective」における「食堂付きアパート」展示風景(photo = 仲建築設計スタジオ)


— 振り返ると1979年に槇文彦さんが「平和な時代の野武士達」という論考で当時の若手建築家に対し「野武士」という捉え方をしました。その槇さんは2017年刊行の著作『残像のモダニズム』所収の「変貌する建築家の生態」で、草の根的に活動する若い建築家たちを「民兵」と位置づけ、ゼネコンや組織設計事務所、ハウスメーカーなどの経済原理に則して組織的に戦う「軍隊」と対比させて論じました。まさに「en:縁」に出展していたのは「民兵」的な建築家でした。そのあたりの話をどう受け止めていますか?
 
仲:最初に 「民兵」という言葉を伺ったときは 「地面ばかりを見て全体の作戦はなくて、“出たとこ勝負”、しかもこそこそ撃っては逃げる」というようなことを意味しているように思われて、俯瞰的な視点が問われているような気がしました。自宅と事務所にしている 「五本木の集合住宅」2017年)も、ヴェネチアを経て、ヴィトラでの展覧会を経験してから、そのことを意識しながらつくったものです。

 

山荘で雪を、福祉施設で雨を環境づくりに生かす

 
— 仲さんは2008年に山本理顕設計工場を退職して2009年に独立され、2012年に現在の仲建築設計スタジオを設立しました。作品を通じてどのようなことを考えられてきたのか、まずは初期の「白馬の山荘」(2011年)から、お聞かせください。宇野さんの参画は2013年ということですが、この頃はお一人で設計されていたのですか? というのも「白馬の山荘」の作風は少し硬くて、「食堂付きアパート」あたりからやわらかくなっていった感じを受けたので。
 
仲:当時から宇野も日本設計に所属しつつ設計に加わっていました。当時はより図式的な設計を意識していたので硬く見えるのかもしれません。僕らには社会的な興味と環境的な興味があるのですが、白馬は環境的なタイプの作品と言えます。白馬は雪深いエリアで、近年は減少気味ではありますが、敷地近辺では2〜3 m積もるんです。
 

「白馬の山荘」外観(photo = 鳥村鋼一)

 
宇野:高原リゾート地としては厳しい気候で、たとえば軽井沢のような「爽やかさ」みたいな印象は薄いエリアです。
 
仲:クライアントは僕の父親で、別荘の建て替えでした。もともとの建物はこのエリアに多い、積雪に対応するために高床となっている建物で、床下を外気が抜けるので冬には床が氷のように冷たくなっていました。夏にも使う別荘なのに、積雪対策の高床形式のせいでまわりの自然と乖離してしまうのがもったいなくて、積雪地の別荘の新しいプロトタイプをつくりたいと考えました。まずは家の半分を軒下空間としました。屋根付きの外部空間です。雪が降り込みにくいので、 1階の床を地続きにできます。そして積雪荷重に耐えうるよう屋根の骨組みを工夫し、水平力を負担するハシゴを2本設けました。周囲に蚊帳やビニールカーテンをかけることで、軒下空間を居室のようにも使えるようにしました。
 
宇野:ハシゴはカーテンを取り付けるための足場としても使えるんです。
 

「白馬の山荘」内観(photo = 鳥村鋼一)


仲:そして地続きにした床で地熱を活用すべく、基礎躯体を地盤面下深くに埋め、地熱による天然の床暖房効果を得られるようにしました。また夏の暑さに対しては、屋根をダブルルーフにして、太陽熱を利用して自然換気が促されるようにしました。さらに真冬には雪を断熱材として活用できます。2メートル積もった雪はグラスウールで言うと 20センチ分の断熱材の機能を果たすので、氷点下においてはなかなかの断熱効果が得られます。まわりにビニールカーテンをかけると、雪に浸かっているような中間的なエリアが生まれるのですが、お風呂に入っているのと同じような感覚になれて面白いんですよ。
 
宇野:金物は職人さんが少ないので、地元のホームセンターで買える金物を組み合わせています。ハシゴと屋根を構成する鉄骨のフレームだけは地元でつくれるところがなかったので浦安の工場でつくってもらいましたが、それ以外はすべて白馬でつくりました。
 
— 現代のバナキュラーですね。
 
仲:またビニールカーテンの裾が風ではだけるのが課題だったのですが、これに対しては、 「氷封」という方法を考えつきました。屋根付き外部の床に直径30mmの半円形断面の溝を設け、ここにビニールカーテンの裾を入れてから水を入れます。すると、 15分もすると自然と凍って、裾ががっちりと固定されます。寒さを味方につけたわけです。賢いでしょ笑
 

「白馬の山荘」で考えついた「氷封」(写真提供 = 仲建築設計スタジオ)


— 山荘というテーマながらロマンティックな方向に偏らず、環境にきちっと向かい合おうとしていますね。つづいて「上総喜望の郷 おむかいさん」(2015年)について教えてください。どのような経緯でここを設計されることになったのですか?
 
宇野:監修者として名前が入っている宇野哲生というのは私の父で、社会福祉法人みづき会は父が長らく付き合ってきたクライアントでした。父は建築家で、東大の 吉武(泰水)研究室の初期メンバーなんです。福祉法人の代表は父と同世代で、 30代の頃に 「上総喜望の郷」を設立し、運営してきました。ここは極めて重度の知的障害者のための入所施設で、ひとたび入所したら一生過ごすような空間です。
 

「上総喜望の郷 おむかいさん」外観(写真提供 = 仲建築設計スタジオ)


仲:近年は知的障害者が暮らす場所としてグループホームが推奨されています。これは街なかにつくられる住宅的な規模の施設に住み、週末は家族の元へと帰るという生活スタイルです。つまり地域生活の場としてグループホームが考えられているのですが、重度の知的障害者が入居する場合は、「まわりに迷惑をかけてはいけない」という考えがどうしても働いてしまうので、結局は牢屋のような空間になってしまうことが多いのです。
 
 実際に幾つか見学することができたのですが、理念と建築のあり方のズレが白々しく感じました。また週末に帰って来られても困るという高齢の親御さんも増えています。そこで重度の障害者にとっては街中のグループホームではなく、ゆったりとした入所施設でのんびり過ごすというのも悪くないのではないかという考え方もあると聞き、納得しました。
 
宇野:この施設には元々、門や塀がありません。なので放っておくと入所者が近くの集落の家に上がりこんでくつろいでいるというようなことが昔からあって、地域にもそのようなあり方がなんとなく受け入れられているようです。でもクライアントは「この場所に魅力がないから、外に出て行ってしまうのではないか」という考え方をするのです。代表は、建築の力を信じている方なんです。
 

「上総喜望の郷 おむかいさん」の軒先空間(写真提供 = 仲建築設計スタジオ)

 
仲:一般的な入所施設は内部が優先なので庭が充実していませんが、ここでは庭をつくることにしました。みんなが遊べて日向ぼっこできるような場所です。分棟にするとより有効に庭を使いやすいだろうと、現在のような形になっていきました。理念先行の観念的な福祉政策批判の性格も持った計画といえます。
 
— 真摯に話し込んで、解決の道筋を見つけていくというやり方を取ったのでしょうか。デザインのロードマップを引くのが難しそうですね。
 
仲:社会福祉法人の代表やスタッフなどで構成されたプロジェクト会議を設け、さまざまな観点からコミュニケーションしながら検討していきました。最初は 1つのまとまった建物で考えていたのですが、徐々に解体されて分棟っぽくなっていきました。運営可能な計画を粘り強く考えて、社会的な関係性を含めてデザインしていきました。
 

「上総喜望の郷 おむかいさん」内観(写真提供 = 仲建築設計スタジオ)

 
 一方で平屋の建物ゆえに、屋根だけで 1,000平米もあるので、その屋根をいかに利用しながら中庭と開放的な住居をつくれるか、可能性を検討しました。ガラス面を多く取ると開放的な空間にできますが、寒くなりやすく高齢の知的障害者には厳しい。そこで、広大な屋根裏を熱だまりとして捉え、温まった空気を床下に吹き込むことにしました。設計時に実験を繰り返し、屋根裏の高さ平均1メートルなので、9時から3時まで6時間の日照があれば 500立方メートルの温まった空気がつくれるという計算を導き、気温に対し 10℃ほど温まった空気を部屋に取り込めるようにしました。
 
 そして 「雨のみち」という観点では、 雨もひとつの楽しみになればと25個の屋根からの雨水を鎖樋で集めて浸透させ、溢れた分は、雨の日に川になるように設計した皿型側溝で流すことにしました。皿型側溝の下部は知的障害者や職員のみなさんが拾ってきたビー玉やおはじきが DIYで埋め込まれています。鎖樋は涼しげな音も魅力的です。
 
— 雨を眺めることで、生きている実感のようなものが感じられそうですね。
 
仲:実は当初は川をつくることは計画になく、設計終盤に福祉法人の方々が、旅先で水路を目にしたことから、庭に水の流れがほしいと要望を出されました。設計ができあがってから排水計画を変えるのはものすごく大変なのですが、ずっとここで暮らしていく中で雨の日も楽しみたいという主旨に共感したので、前向きに取り組みました。

 

ソーシャルな循環、エコロジカルな循環が交わるところに建築がある

 
— つづいて「写真家のスタジオ付き住宅」(2017年)のお話を伺いたいです。
 
宇野:クライアントは国際的に活躍する写真家で「食堂付きアパート」によく来てくれていました。付き合っていくうちに、彼女のまわりには建築家の知り合いも多いのですが、私達に頼んでくれました。
 
— 立地はどのあたりですか?
 

「写真家のスタジオ付き住宅」外観(photo = 鳥村鋼一)

 
宇野:軽井沢の美しい森の中にあります。点在するヤマザクラやクリ、モミジの大木を切らずに建てることがテーマでした。模型をつくり、手を動かしながら、木々の間を縫うように建つ形を見つけていきました。
 
仲:構造はシステマティックで、三つ又のボリュームの中心にある3枚の壁がずれながら交わることで、安定するという構造です。3枚の壁が交わる部分は、全面的に天窓としています。軒桁はフラットである一方で、背骨にあたる3枚の壁とその上部の棟木の高さが徐々に上がっていきます。このような軒桁と棟木にあわせて登り梁をかけていくと、三次元曲面の屋根が生まれます。
 
宇野:施工を担当した丸山工務店の力も大きくて、直線材をずらしながらつくる三次元曲面の屋根をうまくつくってくれました。
 
仲:森の中の仕事場兼住宅です。クライアントからは 「場所に飽きるのが怖い、日々の生活の中でメリハリがほしい」と言われました。そこで、外部の環境の力を借りながら、日々の生活動線の中で抑揚が生まれる建築とすることを考えました。
 
宇野:3方向に広がっている建築なので、時間によって光の入り方が変わるんですね。クライアントは時々お便りをくださるのですが、その中で光を追っていると 1日が終わってしまうと言ってくれたことがあります。
 
— クリエイターにとっては刺激的な場所ですね。つづいて事務所兼自宅にもされている「五本木の集合住宅」(2017年)について教えてください。
 

「五本木の集合住宅」外観(photo = 鳥村鋼一)


仲: 「五本木の集合住宅」は3つの仕事場兼住宅が連なる集合住宅です。冒頭でわれわれの関心がソーシャルとエコロジーの両者にあるという話をしましたが、ここでは2つの領域の融合を媒介するものとして、 雨の力でクールスポットを設けることを考えました。居住者ひとりひとりに水瓶があるという状態にすべく、ギザギザの屋根で雨水を小分けにして集水しています。1階の水瓶に貯めた水は各住戸の入り口前にある植栽ルーバーに撒くことで、各者がそれぞれ植物を育てることを楽しみつつ、打ち水効果や蒸散効果で涼しい環境を手に入れられるわけです。
 

「五本木の集合住宅」のルーバー表面温度を測定(資料提供 = 仲建築設計スタジオ)


 路面の温度が 60℃を超すような真夏でも、グリーンルーバーの表面温度は 30℃に抑えられています。金属系のルーバーですとこうはいかないでしょう。そして、真夏は流石に無理ですが、中間期においては窓を開くと涼しい風が入ってきます。軒下とグリーンルーバーのおかげで中間期の涼しさが得られています。近年はどんどんエアコン不要の中間期が短くなっていますが、建築的な設えにより中間期を長くしようとしているわけです。仕事場なのでそもそも外に開きやすいのですが、それだけではなく気持ちがよいからという理由でも開き、その結果として昼間でも外から内部が伺える状況を維持することができます。ソーシャルなだけだと「仕事場だから、外に開ける」という理屈になるのですが、エコロジカルな要素を重ねていくとより持続的に、外向きの意識が得られると考えました。
 
宇野:窓を開けると、外で立ち話をされている音なんかも入ってきます。閉めていると視覚的には外が見えてても、あまりつながっているように感じられないのですが。下校中の子供の声が聞こえて「あ、もうこんな時間か」と感じることや、「○○いるー?」と長男を気軽に呼びに来てくれる子の声なんていうのは、地域の中にいる実感そのものです。
 
仲:2階の住宅部分については個室がキッチンを介して事務所部分と並列されています。このことでキッチンは昼は事務所の一部、夜は住宅の一部という使い方が可能になりました。また。個室への動線を複数用意していて、将来子どもたちが独立したら人に貸すこともできるような、家族でなくても住める配置としています。
 
— 意欲的な作品だと感じます。近年、計画論を前提にしながら作品をつくる人が減ってきていると感じますが、建物の用途が移ろいやすくなっている今こそ、計画論が求められるような気もしますので。最後に「緑町の集合住宅」(2018年)について教えてください。
 

「緑町の集合住宅」内観(photo = 鳥村鋼一)


仲:床面積 160平米のプロジェクトで、うち半分がオーナー住宅で 40平米 ×2戸が賃貸住宅という長屋建の集合住宅です。賃貸住宅は在宅勤務ができる設えとしました。2階に寝室や風呂などのプライベートな要素を持ち上げて、1階に外に開ける場所だけを残し、庭と関係しながら1階を使えることを考えました。
 
宇野:旗竿敷地の竿の部分も、路地状の庭として活かせるよう計画に取り込んでいます。
 
仲:クライアントとは「食堂付きアパート」をきっかけに出会いました。個人住宅としても自宅をつくれますが、あえて他人と共同で暮らしたいと考えているようでした。実際に不動産屋さんまかせで店子を連れてくるのではなく、こういうライフスタイルで暮らしませんかとプロジェクトを立てて入居者を集め、住みたい場所をつくりたいとおっしゃっていました。「自分たちが住みたい街は自分たちでつくる」ということを実践する方がクライアントとして現れつつあることを実感します。「食堂付きアパート」や 「白金の集合住宅」2018年)もそういったクライアントでした。生活スタイルと生活環境を自分たちでつくって維持していくことができる時代なのだと思います。
 
— 作品を解説していただいて強く感じるのは、志をもった人に出会い、じっくりと向き合う仕事の進め方です。こうした向き合い方は設計料には反映されにくいようにも思いますが、クライアント、設計者双方の納得感が違いますよね。最後に建築における雨のみち、屋根の考え方についてどのような所見をお持ちなのか教えてください。
 
仲:僕が雨、雪を含めた水を特に面白く感じるのは、動的なところです。一時的に貯めて淀みをつくったり流したりすることができ、実は建築との親和性が高いようにも思います。 一般的に雨は漏らさないように排除され、邪魔者のように捉えられる傾向がありますが、実は動的で、人間の生活と近しい存在です。またアジア・モンスーン型の建築や社会というテーマにもつなげられます。有力な思考の入り口になりうるのではないでしょうか。動的というと、流れるだけでなく、凍って固まる、形を変える、というような性質を持っています。白馬の山荘で「氷封」と名付けた使い道をご紹介しましたが、それはこの特徴を利用したものと言えます。
 
宇野:「五本木の集合住宅」ではメダカを飼ったり、家庭菜園をしたりしていますが、水を与えると植物が育つというように、雨と積極的に関わると、いろいろなものを与えてもらえます。また「五本木の集合住宅」を建てているときに古い平屋の木造に仮住まいしていたのですが、大雨になると天井から雨が漏れ出して、雨が弱まると音が弱まり、漏れてくる水も少なくなるということが起き、まるで空が呼吸しているようでした。
 
仲:水は循環するもので、建築とは、その循環の中に生活の場をつくっていくということだと思います。また文化も交流の連鎖でできています。ソーシャルな循環、エコロジカルな循環が交わるところに建築があると示すことができれば、アジア的な建築都市論が語れるのではないかと、今は極めて具体的な体験から紡ぎあげつつあるところです。
 
— 仲さんたちにとって「ヴェネチア・ビエンナーレ」への参加は大きな意義を持つ契機となったようですね。「食堂付きアパート」の出品がソーシャルとエコロジーの両輪から、建築と向き合う確証をもたらすことになったからだった。そこから「五本木の集合住宅」が試みられた。その過程で設計された「上総喜望の郷 おむかいさん」では、まさにソーシャルとエコロジーが全面的な主題に取り込まれていて、「現在進んでいる理念先行の観念的な福祉政策批判の性格を持った計画」となってゆく。また、仲さんたちが希求するアジア的な建築・都市へのビジョン(ソーシャルな循環とエコロジカルな循環が交わるところに建築がある)も伺うことが出来とても刺激的でした。これらのご活躍を期待しています。