“雨のみちをデザインすること”を
多くの人々と共有したい

vol.01:谷田泰/タニタハウジングウェア代表取締役

クロスポイントのインタビューコーナーでは、「雨」まつわるさまざまな分野の人物を取り上げていきます。第一回目は、本ウェブマガジンの編集委員代表で、(株)タニタハウジングウェア代表の谷田泰さんに、ウェブマガジン創刊に至るまでの想いをうかがいました。

━ 今回、なぜウェブマガジン「雨のみちデザイン」をはじめようと思われたのですか?

 去年、さまざまな建築家の方とお話しする機会を頂きました。その中で、私たちタニタハウジングウェア(以下、タニタ)が大事にしている「雨のみちをデザインする」という言葉に対して、皆さんから非常に前向きな反応がありました。雨のこと、雨仕舞いのことを、皆さんすごく考えられていて、苦労も失敗もあって、そんな話を伺うことができて、我々にもまだまだできることがありそうだと感じたのです。
 建築において雨に関する話は、大抵マイナスの話が多くなってしまいます。けど、マイナスの話って蓄積されていない印象にあるのです。もちろん個人個人では、それぞれの経験になっているのでしょうが、そういうものこそ知識として世の中に生かされなくてはいけないと思ったのです。そこでまず、建築家の皆さんの雨に関する私見を集積すると、新しいことができそうな可能性を感じました。今回のウェブマガジンをきっかけに、そんなことが集まったり出入りしたり、いろんな議論になったり。そうなったら我々としてもすごく有難いと思います。

インタビューの様子

━ 会社のコンセプトにもなっている“雨のみち”という言葉は、どこから生まれたものなのですか?

 私が社長になったのは9年前の2003年、38歳のときでした。父から社長の職を継いだ私は、まず当時お客さんだった全国の問屋さんや販売店さんなどを三カ月かけて挨拶回りしました。最初は、これからの建築はどうなるとか、タニタはこういうことをやったらいいとか、そういう未来の話ができるのではと楽しみにしていました。しかし、そんなことはなかった。どの人に話を聞いても、いくら購入しても売れていた時代があったとか、そんな昔の話ばかりなのです。それを聞いて、流通の皆さんから見ても過去の会社になっているのだと痛感しました。
 そこでの体験と、それまでも売り上げが落ちているという現実があって、もう一度原点に帰ったのです。当時、ドラッカーマネジメントを学んでいたこともあって、「タニタの仕事って何だろう?」と考え直しはじめました。タニタは確かに雨といを作っているのですが、果たして雨といを作ることや売ることが、本当にタニタの仕事なのだろうかと。実際お客さんは、雨といをつけることによって得られる何らかの価値を買っているわけです。例えば、雨といがあることで雨だれができないから外観を綺麗に保てるとか、出入り口の所につけておくと出入りに便利とか。だからこそタニタは雨とい屋と呼ばれることが多いのですが、これではダメだと思ったのです。

 そんなときふと「あぁ、うちの仕事は“雨のみち”をデザインすることなんだ」と気づきました。そして“雨のみち”という言葉を大きなコンセプトにすることにしたのです。“みち”は“路”という意味もありますが、“未知”なる可能性という意味もあると思って、あえて漢字ではなく平仮名にしました。
 雨の“路”については、雨が降っているときのことはもちろんですが、実は晴れているときの役割も大事なんです。建築家の方で、軒といのことを眉毛に例える方がいらっしゃいますが、家全体の表情に対して軒先がどうつつましくあるかということもデザイン上、大きなポイントになります。“路”にはそういう想いを込めています。“未知”に関しては、雨といのルーツは、奈良時代に屋根に降った雨水を集めて生活用水に使うことにはじまると言れているのですが、現代に雨水利用の未知なる可能性を探りたいという想いを込めました。だから、“雨のみち”の“みち”という言葉は、雨が降っているときの役割、晴れているときの役割、雨を生かし利用するという三つの想いで掲げたわけです。

 

“雨のみちをデザインする”という言葉を使い始めて、まわりの反応はどうでしたか?

 最初は、社内ではまるでピンと来ていないようでした(笑)。一方で、外へ出ると皆さんとてもおもしろがってくれて、そのギャップをとても感じました。誰かにお話するときも、雨といを買いませんか?というお話ではなくて、“雨のみちをデザインする”ことについてお話するので、こちらはとても話をしやすく、またとても話を聞いてもらえるようになったのです。

━ 創刊されたばかりのウェブマガジン「雨のみちデザイン」が、読者の方々からとてもいい反応をいただいているのも、“雨のみち”という視点が共有されている結果だと思います。 最後に、冒頭で今回のウェブマガジンでは、マイナスの蓄積のフィードバックをアウトプットしていきたいというお話がありましたが、具体的にはどんなイメージを持たれていますか。

 建築家の方とも工務店とも、よりつながりを持てていけるといいなと思っています。皆さんが市場でやっていこうとすることに対して、プラスアルファで私たちはどういうことができるかと。雨といだけでなくて、雨のみちをデザインするという視点で、私たちの持っている加工技術などをどう生かすか。そういうことが一つ二つと積み上がっていくと面白いなと考えています。
 あと、タニタは住宅だけではなくて、もう少し大きな建物にもトライしていきたいという想いがあります。震災の影響もあって、非住宅である箱物の建物でも、最近は屋根が見直されているように実感しています。箱物というと自然に対抗する建物のようなものが多いですが、屋根を付けると自然と折り合いをつける建物になってくる。屋根を付けると軒といが必要になってきます。タニタは軒といと縦といを一緒に提案することを当たり前にやっている会社ですが、意外と現場では、軒といを使った経験の少ない方もいらっしゃるようです。だからこそ、これまでのノウハウを大きめの建物に生かすことができればと考えています。

 例えば、創刊号に登場いただいた隈研吾さんが設計をして、最近竣工した<浅草観光文化センター>や八王子の<帝京大学小学校>などでは、私たちの雨といを使っていただいています。だから、住宅だけではなく、大きな建物についても、“雨のみち”の視点から、さまざまな事例や人物を取り上げていくことができればと思います。雨の話になったら、「雨のみちデザイン」ウェブマガジンやタニタのサイトに行くと、面白い情報がある、というふうになっていくといい。いつか、収まりの詳細図なども見られるようになるといいですよね。


上段:<浅草観光文化センター>、下段:<帝京大学小学校>(写真提供=タニタハウジングウェア)

 


谷田 泰(たにだ・やすし)
 
1964年10月26日生まれ。(株)タニタハウジングウェア代表取締役社長、緑のカーテン応援団副理事長、(株)タニタ社外取締役、(株)吉岡代表取締役。