雨と生きる。雨を活かす。雨の文化創造を考える。

 
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 建築時評コラム 
 新連載|にわか雨の如く、建築に異議を申し立てる時評 

その不意さ加減の面白さ、深刻さを建築の時評に。建築のここが変だ、ここがオカシイ、建築に声を上げる「驟雨異論」。 にわか雨が上がるのか、豪雨になるのか!?


 
太田佳代子(おおた・かよこ)

 
建築キュレーター、編集者。ハーバード大学デザイン大学院研究員。2018-20年、カナダ建築センター(CCA)特任キュレーター。2014年ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展日本館コミッショナー。2012年までオランダの設計事務所OMAのシンクタンクAMO勤務。共著書に『SHIBUYA!』(CCCメディアハウス、2019)、共訳書に『S,M,L,XL+』(筑摩書房、2015)など。2004-07年、雑誌「Domus」副編集長・編集委員。

KAYOKO OTA #1     2021.04.20

都市のシナリオを書くのは誰なのか

 
 朝の情報番組を見ていて、思わず箸の手が止まった。いま人気の就職希望先は圧倒的にコンサルだというのだ。もはや金融系でも広告系でもなく、コンサル。業界的には戦略系コンサルと言うらしいが、シンクタンクをもつビジネスコンサルタントの存在感が強烈らしい。この調査、東大・京大が対象だから偏ってはいるが、自他ともに最優秀と考える若者たちがどこを目指すのかにはそれなりの意味がある。
    で、ランキングの1位から7位までがずらりコンサル。しかも野村総研以外、オール外資系だ。へぇ、いつの間にそうなったの?と思いつつ、そういえば私自身、コンサルの実力を実感したことがあったのを思い出した。
 
    東北大震災の年の暮れだったと思う。東京で開かれた都市開発系のシンポジウム。パネリストに外資系コンサルの人が入っていたので、私は興味津々だった。発表されたパネルは東北に作るスマートシティ構想についてで、それ自体は図式的すぎて退屈だったが、都市開発ないし復興の過程で自治体にもデベロッパーにもカバーできないエリアがあり、そこにコンサルが鋭く攻め込んでいる、ということに軽い衝撃を覚えた。そのエリアとは都市の未来構想、つまり 都市のシナリオを描く、ないしは方向性を指し示すという、きわめて重要なものだ。そんな大事なことが自治体から外部に委託されること自体、驚きだったが、被災後の特殊な状況だったからなのか。
 
    そこで東北の復興計画について調べてみると、総研を含むコンサルに復興構想のとりまとめを委託した県や市が少なくとも6カ所あることがわかり、興味は深まった。結局シンポジウムの外資系コンサルは、会津若松市をスマートシティにするというシナリオを自治体に受け入れさせ、政府の支持も取り付け、テナントや投資もしっかり集めて、プロジェクトは 10年順調に進んでいるという。
    外資系コンサルは自らをこの仮想都市の 「アーキテクト」と呼んでいる。都市のいろんな要素を明快な配置にプロットし、 IT言語を駆使して実施設計を作り、行政、企業、大学と連携してデータプラットフォームを構築する役割だ。この仮想都市の動きからやがて新しい建物ができ、新しい都市空間が生まれる。 だが「アーキテクチャー」と「建築」はリンクしていない。空間的な思考で都市像を描くことのできる人々、つまり都市・建築のデザイナーはアーキテクチャーに関わらない。都市 OSで動かされる都市の新しい環境は、空間的な想像力や経験知識を介すことなく描き出され、従来の工程に沿ってスルリと設計施工されていくと想像される。
 
    スマートシティは都市・建築の世界で議論され試行錯誤されているような、まちづくりや都市再生とは別次元のものだ。だが、会津若松市の場合は、未来志向の地方創生モデルとして官民の支持を集めていて、現実に都市のありようを変えていきそうな勢いだ。一方、同じ震災後の東北には、使命感を抱く建築家や大学の研究室が連帯してさまざまな復興案を作り、自治体に提案するという動きもあった。しかし、実現に至ったものはごくわずかだった。あの頃の建築界に漂っていたフラストレーションや挫折感は、今でもよく覚えている。
    この二つの現実の別世界感はつまり、 市場原理で都市の未来を考えるか空間的思考で考えるかの根本的な差異と言えないだろうか。そしてそのどちらもが必要で、両者をなんとかリンクさせることが、未来の端緒に立つ私たちの重要な課題だと思うのだ。
 
    当時、私は建築家たちの示した純粋な熱意に打たれる反面、建築家としては突飛に見えてでも、もっと社会全体に都市の未来を考えさせるような動きがあってもいいんじゃないかと感じていた。まさに戦略系コンサルならぬ 戦略系建築家が求められているんじゃないかと。
    建築家・ 北山恒さんの著書に 『都市のエージェントはだれなのか』(2015/TOTO出版)というタイトルの本があるが、まさにそこなのだ。都市のシナリオが書かれる大事な場面に、都市を空間的に構想できる人、つまり建築家や都市デザイナーがいた方がいい。そう私は思っている。しかも企業ではなく個人としてのデザイナーが。
 
    都市のシナリオを書く仕事は行政の手からどんどん離れ、大規模な開発では戦略系コンサルやシンクタンクをもつ大手広告代理店、鉄道会社などに移っているようだ。そしてデベロッパーやゼネコンや大手設計事務所が、そのシナリオを採算の取れるかたちに具体化していく。やがてまちはどこも同じような構成、同じような風貌になっていく。
    新しい都市空間が生まれるプロセスにおいては、大企業の価値基準や思考回路が圧倒的に優勢で、あえて市場原理から外れた発想、実験的な方法、長期的な価値判断といったものの入り込む余地がない、というのが私のフラストレーションだ。個人ないし小組織の思考が社会的な発言力を持つ、ということがどんどん想像しにくくなっている。が、それが実現すれば少しは流れが変わるのではないか。
 
    その意味で、いやいやどうして、 トヨタ「ウーブン・シティ」の話は面白いと思う。 「コネクテッド・シティ」なるコンセプトを思いついた 豊田章男社長は、いきなり建築家の提案する都市構想を採用した。都市を不動産商品にする気はさらさらない彼は、コンサルにもデベロッパーにも声をかけなかったという。財力あっての慧眼だろうが、注目したいのは建築家 ビャルケ・インゲルスの発想力と説得力である。それがあれば、日本の経済界にも拾う神あり、流れは変わる可能性があることが示されたわけだ。
 

「下北線路街 BONUS TRACK」(設計:ツバメアーキテクツ、写真:morinakayasuaki)


    一方、戦略系を志す建築事務所がついに日本に出てきたことも、頼もしい展開だ。下北沢駅前の開発に構想から参加した ツバメ・アーキテクツは、リサーチと設計の両輪でやっているという。彼らのようなディベロッパーともタッグを組みながら マイクロ・アーバニズムの試みが少しずつ成功を重ね、世の中に広がっていけば、これも流れを変える力になっていくと期待できる。

|ごあいさつ

 建築・都市の批評を共有する新しい場づくりを、との主旨から企画された「驟雨異論」。無事、初年度(2020年)分のWEB発信が果たせました。
 
 「驟雨異論」は分野・世代の出自を横超する3氏の執筆者が1年間に渡り、順繰りに時評をリレー式に各4本ずつ連載します。執筆者3氏のシナジーも楽しみで、建築・都市への骨太な時評が期待されるものです。
 
 2020年度の執筆にあたって頂いた北山恒、野沢正光、山本想太郎の各氏には、改めて御礼申し上げます。どれもが期待に違わぬ視点の定まった批評性を示すものでした。大変お疲れ様でした。
 
 遡って考えれば、「驟雨異論」の船出は、コロナ禍での緊急事態宣言発出の最中でした。それはウィズコロナ社会の事態が一気に社会の矛盾をあぶり出す気配と眺めとを示す契機となるものでもあり、建築・都市への批評に大きな問題意識を共有するチャンスでもあります。私は、こんな折からの「驟雨異論」の船出をまさに、時機を得たものと想っているのです。
 
 新年度2021年の新たな執筆者の陣容は、太田佳代子、布野修司、連勇太朗の各3氏となります。一層の批評の多彩さと面白さとが炸裂するはずです。ご期待ください。
 

2021/03/19

真壁智治(雨のみちデザイン 企画・監修)
 

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